ジャイロと加速度センサを内蔵した高精度・高安定ハイブリッドGNSS航法装置

要約

衛星測位部と3軸ジャイロ、加速度センサを内蔵する一体型航法システムである。測位衛星からの位置情報と速度、加速度、3軸方向情報などを組み合わせてフィルタリングし、位置、方向、速度の情報の安定化と精度向上を図り、防風林付近でも位置精度±40cm以内である。

  • キーワード:GPS、ジャイロ、航法センサ、ガイダンス、トラクタ、精密農業、GNSS
  • 担当:IT高度生産システム・大規模IT農業
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・水田作研究領域、畑作研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

近年GPS航法装置の導入が進んでいるが、移動体の位置情報は、捕捉衛星配置の変化や電波の伝搬経路の状態変化などによって大きな測位誤差を生じたり、樹林や建物の陰では、衛星信号を捕捉できずに精度が低下するという問題がある。そこで、慣性センサとGPS以外の測位衛星情報も取得できるGNSSボードを組み合わせ、データをフィルタリングして位置、方向、速度データの安定性と精度向上を図れるハイブリッドの航法装置を開発する。

成果の内容・特徴

  • 開発した航法装置(図1)は、測位衛星(GPSとGLONASS)とMSAS(運輸多目的衛星用衛星航法補強システム)衛星からの位置補正情報を受信できるGNSSボード(Ashtech社、MB100)とアンテナ、加速度センサ(最大加速度3G)、圧電振動型3軸ジャイロのボード(東京計器、VSAS3GM)からなる。12V電源で使用し、フィルタリングした位置、3軸方向と生データの3軸加速度、3軸回転角速度を出力できる。
  • 方位、回転角速度、加速度のデータと測位データを内部でフィルタリング処理し、位置、方向、速度データの精度向上を図り、通常、位置誤差±40cm以内、RMS(誤差自乗平均平方根)では25cm、方向精度±1deg、ロール角、ピッチ角は、それぞれ±2deg以内である。
  • 捕捉衛星数が10~14個と従来のDGPS(ディファレンシャルGPS)の6~11個より多いため、測位精度が高く、安定している。衛星配置等の変化により、位置情報に大きな誤差が生じたときも、ジャイロからの方向、速度データから位置を自動的に内部補正する(図2)。また、建物や樹林の陰などで一時的に測位情報が途絶えて測位誤差が生じた時も、フィルタリング機能により高精度の安定した航法データを出力できる(図3)。
  • 実際にトラクタに搭載して防風林(高さ20m程度のポプラ林)に隣接した圃場でガイダンスとして利用した結果、防風林直近でも、ほぼ設定間隔の平行ラインの経路を表示した(図3)。作業中の位置誤差は、ほぼ±40cm以内、RMSで24cm、一方、対照の市販のDGPSでは、1m以上のバイアスシフトが生じ、位置誤差は、RMSで1.6mであった(図4)。
  • 開発装置による速度データの精度は、0~6m/sの範囲でも±0.7m/s以内である。停止と移動を判別できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象 GPSを既に保有あるいは今後利用を検討している農業生産者、生産法人の他、GNSS関連企業など、従来のGPSよりもより安定・高精度を求めるユーザー。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 北海道の他、全国の大規模農業地域に加えて建設機械分野に計150台。2012年秋に498千円で販売。2012年春に先行モニター販売。
  • その他 RS232C出力の他CAN出力も選択可。ガイダンス用専用ソフト(Geosurf、新SIZE1000、価額200千円)が同時販売。GPS標準出力様式NMEA0183でも出力できる。

具体的データ

図1 開発したハイブリッドGNSS航法装置内部(試験機)とトラクタ運転席横に取り付けた装置図2 開発装置の内部フィルタリング処理による経路(青線)(台車による走行試験、速度4km/h、赤線はGPS生データ)
図3 防風林付近での開発装置によるトラクタガイダンスでの等間隔(2.56m)往復平行走行時の表示データと生データ、および精度検証用RTK-GPSの走行軌跡の比較(防風林直近の最終行程では、精度検証用RTK-GPSデータがFIXせず精度が低下したが、この部分の精度検証は、写真の7-8行程間の轍跡距離と同一箇所の軌跡データ距離を比較し、ほぼ一致を確認した。)図4 開発装置(下)と対照DGPS(上)の圃場往復走行での表示位置精度の比較(RTK-GPSを基準とし、初期位置を合わせて表示)

(村上則幸)

その他

  • 中課題名:IT等の利用による精密・低コスト大規模農業のための基盤技術開発及び体系化
  • 中課題番号:160d0
  • 予算区分:交付金、顕在化ステージ(JST 2006年度)
  • 研究期間:2006~2011年度
  • 研究担当者:村上則幸、澁谷幸憲、大下泰生、井上慶一、大内秀樹(東京計器)、新居和展(ジオサーフ)
  • 発表論文等 : 井上ら(2012) 農機北支部報、52(印刷中): 特許出願申請中。