コメ由来エタノール生産における多収品種導入と稲わら持ち出しの環境影響評価

要約

多収品種導入と稲わら持ち出しの組合せによって、エタノール原料米生産のエネルギー収支は13%改善される。稲わら持ち出しは、水田土壌由来のメタン発生量を大幅に削減するため、エタノール原料米生産の温室効果ガス収支を約9割改善する。

  • キーワード:コメ、バイオエタノール、稲わら、エネルギー収支、温室効果ガス収支
  • 担当:バイオマス利用・地域バイオマス利用
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・畑作研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

北海道では、コメを原料とするバイオエタノールのパイロット生産が進められている。バイオエタノール生産の効果を高めるためには、原料作物の栽培からエタノールへの変換までの作業工程に対して、エネルギーや温室効果ガスの収支改善に有効な技術を新たに導入する必要がある。本研究は「多収品種導入」と「稲わら管理」がエタノール収量、エネルギー投入量および温室効果ガス排出量等に及ぼす影響を評価し、エネルギーおよび温室効果ガスの収支改善に寄与する原料米の栽培方法を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 「きたあおば」のエタノール収量(2.94kL ha-1)は、「きらら397」のそれ(2.23kL ha-1) よりも32%高い(表1)。
  • 「きらら397」と「稲わらすき込み」の組合せでは、28.5GJ ha-1のエネルギー投入を要する(図1左)。「稲わら持ち出し」では、稲わらの収集やトラック輸送のため、エネルギー投入量は「稲わらすき込み」よりも10%大きくなる。
  • 「きらら397」と「稲わらすき込み」の組合せでは、温室効果ガス排出量(CO2換算)は、25.5t ha-1となり、水田土壌から発生するメタン(CH4)が総排出量の91%を占める(図1右)。「稲わら持ち出し」によって、CH4発生量が大幅に減少し、総温室効果ガス排出量も小さくなる(「きらら397」、「きたあおば」で、各々86、87%削減)。
  • 1Lのエタノール生産に必要なエネルギー投入量について、「きたあおば」と「稲わら持ち出し」により、エネルギー収支は13%改善される(12.8から11.1MJ L-1、図2左)。
  • その一方で、1Lのエタノール生産に伴う温室効果ガス排出量は、「稲わら持ち出し」によって大幅に小さくなる(図2右)。「きらら397」と「きたあおば」では、1Lのバイオエタノール生産に係る温室効果ガス排出量は各々86、87%減少する。

成果の活用面・留意点

  • 本研究は、原料作物の栽培と収穫物(もみ、稲わら)の輸送を評価の対象としている。
  • 持ち出した稲わらの利用(例えば、ボイラー燃料やバイオエタノールの原料)については,別途評価が必要である。
  • 日本各地で、「稲わら持ち出し」の長期継続は、土壌中の無機養分(ケイ素や微量要素など)や有機物の含量を減少させ、水稲収量に悪影響を及ぼすことが報告されているため、稲わらの焼却灰や発酵残さを定期的に水田に返すことや、数年に1回稲わらや堆肥を水田にすき込む等の対策が必要と考えられる。

具体的データ

表1「きらら397」と「きたあおば」の粗玄米、稲わら、もみ、エタノール収量
図1 単位面積あたりのエネルギー投入量(左)およびCO2等価温室効果ガス排出量d(右)
図2 1Lのバイオエタノール生産に係るエネルギー投入量(左)およびCO2等価温室効果ガス排出量(右)

(古賀伸久)

その他

  • 中課題名:地域資源を活用したバイオマス循環利用システムの開発
  • 中課題番号:220e0
  • 予算区分:共同研究
  • 研究期間:2008年度
  • 研究担当者:古賀伸久、田島亮介(東北大農)
  • 発表論文等:Koga N. and Tajima R. (2011) J. Environ. Manage. 92 (3): 967-973