北海道地域で育成されたイネ品種群の遺伝的集団構造

要約

北海道のイネ品種群は、育成年次に応じて遺伝的に6グループに分化している。これらは、各グループの育成時に、本州あるいはアメリカに由来する品種を交配母本として活用したことに起因すると考えられる。

  • キーワード:イネ、品種群、品種育成、遺伝的集団構造
  • 担当:作物開発・利用・稲遺伝子利用技術
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・寒地作物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

作物の品種育成では、各時代の育種目標および栽培技術に対応して、優良品種の開発を行ってきた。この過程においては、目標形質を発現するために新たな遺伝資源を活用した遺伝的多様性の拡大および適応性を兼ねそろえた優良形質を有する系統の選抜が行われてきたと考えられる。しかしながら、これらの品種育成の過程は、表現型評価という品種育成の現場における多大な労力によってのみ行われてきた。
本研究では、これまでに育成された優良品種の遺伝的集団構造を明らかにし、品種育成における遺伝的多様性の拡大、選抜について、ゲノムレベルで理論付けることにより、今後の育種戦略構築に役立てることをねらいとする。

成果の内容・特徴

  • 極早生性という特異な適応性を必要とする北海道のイネ品種群を解析に用いる。在来種である「赤毛」から現在の奨励品種である「ゆめぴりか」までの計63品種を選定する。これら品種について、63種のSSRマーカーによる遺伝子型評価を行い、UPGMA法による系統樹解析およびSTRUCTUREによる遺伝的集団構造解析を行う(図1)。
  • 北海道の品種群は、遺伝的に6グループに分類できる(図1)。グループIには、「赤毛」に代表される在来種と1941年以前の初期の品種育成で開発された品種の11品種が分類される。グループIIには「坊主6号」をはじめとする1919-1953年に育成された8品種が分類される。グループIIIには19品種が分類され、更に2グループに区分できた。「早生富国」をはじめとする1935-1977年に育成された13品種はグループIIIaに、「ユーカラ」をはじめとする1962-1989年に育成された6品種はグループIIIbに区分される。グループIVには、「農林15号」とその後代を含む1940-1990年に育成された11品種が分類される。グループVには、1983年以降に育成された「キタアケ」とその後代13品種が分類される。
  • 次に、育成系譜、各グループの構成品種、ゲノム構成から、これらのグループの分化に関わる品種の特徴づけを行う(図2)。その結果、本州あるいはアメリカ品種Codyを交雑に用いたことにより、遺伝的な分化が生じたと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 北海道における水稲育種において、遺伝的多様性を考慮した交配設計および育種計画の策定に利用できる。

具体的データ

図1~2

その他

  • 中課題名:次世代高生産性稲開発のための有用遺伝子導入・発現制御技術の高度化と育種素材の作出
  • 中課題整理番号:112c0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:藤野賢治、松葉修一、品田博史(道総研)、山本敏央(生物研)、山本英司(生物研)、堀清純(生物研)、米丸淳一(生物研)
  • 発表論文等:Shinada H. et al. (2014) Theor. Appl. Genet. 127:995-1004