コムギの新規強親水性天然変性タンパク質WCI16は耐凍性を向上させる

要約

コムギの低温馴化過程で誘導されるWCI16は強親水性タンパク質であり、タンパク質保護活性をもつ。WCI16を植物中で高発現されることにより、耐凍性を向上させることができる。

  • キーワード:コムギ、低温馴化、耐凍性、LEAタンパク質
  • 担当:作物開発・利用・麦・大豆遺伝子制御
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・寒地作物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

北海道の様な冬に-20°C以下に気温が低下する地域でのコムギ栽培においては、耐凍性(凍結に耐える能力)の強化が重要な課題である。また、凍結により組織が傷害を受けた状態では雪腐病菌の侵入を受けやすいため、雪腐病抵抗性を強化する上でも耐凍性の強化は必要である。コムギや牧草などの越冬性植物は秋の低温を感知して、耐凍性を高める遺伝子の発現を上昇させ、来るべき冬に備える「低温馴化」と呼ばれる適応機構をもっている。本研究では、コムギの低温馴化過程で顕著に発現が増加する機能未知遺伝子に着目し、耐凍性との関係を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • Wheat cold induced 16 (WCI16)は低温で発現が顕著に誘導されるコムギの機能未知遺伝子であり(図1A)、高い親水性(水と結合しやすい)を示すタンパク質をコードする(図1B)。
  • WCI16は煮沸させても沈殿凝集が起こらないこと(図2)およびNMRによる構造解析から(データ省略)、特定の2次構造をとらない天然変性タンパク質である。
  • WCI16は乳酸脱水素酵素(LDH;凍結融解により失活する)の凍結融解に対する保護活性を示すことから(図3)、タンパク質保護作用を持つ。
  • 1?3の結果から、WCI16はLEA(Late Embryogenesis Abundant)タンパク質と呼ばれるストレス耐性に関与するタンパク質と共通の特徴を持つ。しかし、WCI16はこれまで同定されたLEAタンパク質と相同性を示さないことから、新規ファミリーのLEAタンパク質である。
  • WCI16をモデル植物であるシロイヌナズナで高発現させると(図4A)、耐凍性は向上するが(図4C)、野生株との間に生育の違いは見られない(図4B)。

成果の活用面・留意点

  • 作物の耐凍性獲得メカニズムの解明に向けた基礎的知見となる。
  • WCI16のコムギ品種間における発現差異およびコムギを用いた機能解析については今後の課題である。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:ゲノム情報を活用した麦・大豆の重要形質制御機構の解明と育種素材の開発
  • 中課題整理番号:112g0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2007~2014年度
  • 研究担当者:佐々木健太郎、Nikolai Kirilov Christov、津田栄(産総研)、今井亮三
  • 発表論文等:Sasaki K. et al. (2014) Plant Cell Physiol. 55 (1):136-147