ラクトフェリンによるウシ乳腺を構成する細胞の増殖制御

要約

泌乳期の進行に伴って分泌量が増加するラクトフェリンは、支持組織の乳腺線維芽細胞の増殖を促進し、乳合成を担う乳腺上皮細胞の増殖を抑制することで、産乳に対し抑制的に作用する。

  • キーワード:乳腺上皮細胞、線維芽細胞、乳腺、泌乳牛、ラクトフェリン
  • 担当:家畜生産・泌乳平準化
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・酪農研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ウシ乳腺を構成する細胞の増殖は乳腺組織の発達および退行に直結するため、泌乳曲線形状に深く関係している。乳中に分泌されるラクトフェリンの濃度は、乳期進行に伴って上昇し、乾乳後の乳腺ではさらに多量のラクトフェリンが合成される。そこで乳汁合成を担う乳腺上皮細胞と支持組織を構成する乳腺線維芽細胞を採取し、ラクトフェリンがそれらの細胞の増殖に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ラクトフェリンは乳腺線維芽細胞の増殖を濃度依存的に促進する(図1)。1,000 μg/mlのラクトフェリンで処理した細胞では未処理の細胞と比較して、細胞増殖が約2.5倍になる。一方、乳腺上皮細胞はラクトフェリン処理により、細胞増殖が減少する。
  • ラクトフェリン処理により乳腺線維芽細胞の増殖に関与するMAPキナーゼ(p44/p42 MAPキナーゼ)がリン酸化される。しかし、乳腺上皮細胞ではリン酸化が殆ど変動しない(図2)。乳腺線維芽細胞の増殖はp44/p42 MAPキナーゼシグナル経路の阻害剤によって減少することから、ラクトフェリンはp44/p42 MAPキナーゼを介し細胞増殖を促進すると推察される(図3)。
  • ウシ乳腺組織から採取したサイトケラチン陽性の乳腺上皮細胞とビメンチン陽性の線維芽細胞を哺乳動物細胞用の培地で培養し、ラクトフェリンによる作用を解析した結果である。

成果の活用面・留意点

  • ウシ乳腺の発達・退行制御の解明における科学的知見となる。
  • 乳中ラクトフェリン濃度を指標とした泌乳曲線の予測および泌乳持続性を向上させる飼養管理技術の開発のための基礎的データとなる。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:乳牛の泌乳曲線平準化を核とする省力的な群管理技術の開発
  • 中課題整理番号:130f0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2014年度
  • 研究担当者:中島恵一、伊藤文彰、中村正斗、山崎武志、田鎖直澄
  • 発表論文等:Nakajima K. et al. J. Dairy Sci.(2015)98(2):1069-1077