日本のコムギ縞萎縮ウイルスのゲノム配列の多様性

要約

日本のコムギ縞萎縮ウイルスのゲノム配列は、アミノ酸残基の違いからRNA1ゲノムは3つ、RNA2ゲノムは2つの遺伝子型に分かれる。RNA1ゲノムの遺伝子型は各株の病原型と対応することから、RNA1に病原型を決定する因子が存在する可能性が高い。

  • キーワード:コムギ縞萎縮病、コムギ縞萎縮ウイルス、病原型、遺伝子型
  • 担当:環境保全型防除・生物的病害防除
  • 代表連絡先:電話 011-857-9260
  • 研究所名:北海道農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

コムギの縞萎縮病は、コムギに著しい萎縮や葉の黄化をもたらし、激しく発病した場合は3割以上の減収をもたらす。本病の病原であるコムギ縞萎縮ウイルスは、病原型I~III型に分かれる複数の系統が存在することが知られているが、病原型を決めているウイルス側の要因、すなわち病原型に関与するウイルスゲノム配列のアミノ酸残基は明らかとなっていない。そこで、日本各地から採集したコムギ縞萎縮ウイルスのゲノム配列を比較し、ウイルスのゲノム配列と病原型の関係を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 日本各地から採集したコムギ縞萎縮ウイルスの14株を複数のコムギ品種に接種したところ、3種類の感染パターンを示し、既報(大藤ら、2006)と一致する病原型I~IIIに分けられる(図1)。
  • 14株の2分節ゲノム配列を比較したところ、翻訳領域のアミノ酸配列の同一性はRNA1ゲノムで98.0%-100%、RNA2ゲノムは96.1%-99.6%であり、株間の変異は小さい。
  • ゲノム配列上にいくつか特徴的なアミノ酸残基の違いが認められ、RNA1ゲノムは3つ(A、A´、B型)、RNA2ゲノムは2つ(a、b型)の遺伝子型に分かれる(図2)。アミノ酸残基の違いは、RNA1ゲノムでは封入体タンパク質、RNA2ゲノムではP2タンパク質をコードする配列に多く認められる。
  • RNA1の遺伝子型A型とA´型は配列の相同性が高い。
  • RNA1ゲノムの遺伝子型は各株の病原型と対応することから、病原型を決定する因子はRNA1ゲノムに存在する可能性が高い(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 得られた知見は、コムギ縞萎縮ウイルスの病原性に関わるゲノム配列やウイルスタンパク質の特定に利用できる。
  • コムギ縞萎縮ウイルスの遺伝子型や地域分布の情報は、抵抗性品種の選抜のための基礎資料として利用できる。

具体的データ

図1~2

その他

  • 中課題名:生物機能等を活用した病害防除技術の開発とその体系化
  • 中課題整理番号:152a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:大木健広、根津修、小島久代、酒井惇一、大貫正俊、眞岡哲夫、白子幸男(東大アジア生研)、笹谷孝英
  • 発表論文等:Ohki T. et al. (2014) Phytopathology 104:313-319