サトウキビ野生種の花粉凍結貯蔵法

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

日本産サトウキビ野生種(Saccharum spontaneum)の花粉を、摂氏20度、相対湿度50%程度の室内で風乾後、摂氏-80度で凍結貯蔵すると、3か月後の交配でも雑種を作出することができる。置床前に加湿処理すると寒天培地上で花粉管の発芽が直接観察できる。

  • 担当:九州農業試験場・作物開発部・さとうきび育種研究室、国際農林水産業研究センター・沖縄支所・作物育種世代促進研究室、沖縄県農業試験場・八重山支場・作物研究室
  • 連絡先:09972-5-0100
  • 部会名:畑作
  • 専門:育種
  • 対象:工芸作物類
  • 分類:研究

背景・ねらい

南西諸島の持続的なサトウキビ生産には、複合経営を可能にする極早期高糖性サトウキビ品種の育成が重要であり、そのためにはサトウキビ野生種の持つ極早期出穂性を高糖性品種・系統に導入する必要がある。しかし、我が国では野生種と実用品種・系統との出穂の同調化は困難であり、貯蔵花粉を用いた交配法も確立 されていない。アメリカ合衆国農務省ではサトウキビ野生種の貯蔵花粉を用いた交配により実用品種・系統との雑種を得ているが、貯蔵花粉の稔性評価法が未確立の状況にある。そこで、花粉の貯蔵法と貯蔵花粉の稔性評価法を開発し、貯蔵花粉を利用した交配法を確立して雑種の作出を図る。

成果の内容・特徴

  • 花粉は室温摂氏20度、相対湿度(RH)50%程度の条件で1~2時間風乾し、含水率を10%程度に下げた後に、摂氏-80度程度で凍結すると、3か月間は貯蔵できる(表2)。
  • 貯蔵した花粉は、デシケータ内で1時間解凍した後、発芽培地への置床前に加湿(摂氏24度,RH90~95%,2時間)すると、花粉管の発芽が観察できる(表1,表2)。これを「人工発芽法」と呼称する。
  • 貯蔵後の花粉稔性は、「人工発芽法」、「TTC還元法」、「蛍光染色(FCR)法」の各評価法間で有意な相関関係が認められる(表3)。「人工発芽法」は、花粉管の発芽を直接観察できるため、花粉の稔性を確実に確認できる方法である。
  • 取木亜硫酸水法で維持し、温湯で除雄(摂氏46度,12分間)した母本に、さとうきび野生種の貯蔵花粉を用いて交配(1回に花粉200mg計3回)することで、多数の種間雑種を得ることができる(表4)。

成果の活用面・留意点

  • 出穂同調化が困難な極早期出穂性サトウキビ野生種を用いる交配で特に有効である。
  • 交配及び他の育種操作が計画的かつ安定的に実施できる。
  • 稔性評価の精度向上には、培地への置床前に行う加湿処理等の改良が必要である。

具体的データ

表1 花粉の発芽に用いた培地
表1 花粉の発芽に用いた培地

 

表2 各評価法による新鮮時及び3か月貯蔵後の花粉稔性
表2 各評価法による新鮮時及び3か月貯蔵後の花粉稔性

 

表3 貯蔵花粉の評価法間の相関係数
表3 貯蔵花粉の評価法間の相関係数

 

表4 貯蔵花粉から得た種子及び個体
表4 貯蔵花粉から得た種子及び個体

 

その他

  • 研究課題名:種属間交雑による不良環境適応・極早熟性さとうきび品種育成技術の確立、さとうきび良質 安定多収機械化適応品種の育成
  • 予算区分 :作物開発強化、経常
  • 研究期間 :平成10年度(平成6~10年,昭和42~平成12年)