樹脂固化薄片作成による堆肥ペレットの微細形態観察手法

要約

圃場施用前または施用後の堆肥ペレットに樹脂を含浸させ、固化、切断、研磨して薄片プレパラートを作成することにより、ペレットの微細形態(孔隙の量や連続性、固相の形など)を観察できる。

  • キーワード:堆肥ペレット、微細形態、薄片プレパラート
  • 担当:九州沖縄農研・土壌環境指標研究チーム、暖地温暖化研究チーム
  • 代表連絡先:電話096-242-7764
  • 区分:九州沖縄農業・生産環境(土壌肥料)、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

堆肥ペレットはハンドリングや貯蔵性などに優れた有機物資材である。堆肥ペレットに関しては、各種作物への施用技術の開発と共に、ペレットに特有の温暖化ガス発生や養分の保持・放出性など資材特性の解析が進められている。ペレットは化学成分的には非成型の堆肥とほぼ同じだが、圧縮造粒により内部の微細形態は非成型の堆肥と大きく異なり、その形態を介して特有の資材特性が発現すると考えられる。そのため、ペレットの資材特性を解析する上で、微細形態は重要な基礎的データであるが、既往の知見は見当たらない。
そこで、土壌の微細形態観察に使用される樹脂固化薄片作成法を応用し、堆肥ペレットの薄片プレパラートを作成して微細形態を観察する手法の確立を図る。

成果の内容・特徴

  • 図1の手順により、風乾した堆肥ペレットから薄片プレパラートを作成できる。牛ふん、鶏ふん、バークなど、どの種類の堆肥のペレットもこの方法で薄片にできる。機材は土壌薄片作成用の回転砥石や研磨盤をそのまま使用でき方法もほぼ同じだが、堆肥の繊維が吸水膨潤する場合があるため、研磨時の洗浄は最小限にとどめ、洗浄後は速やかに水を拭き取る。
  • 牛ふん堆肥ペレットの薄片をスキャナで画像化すると、圃場に施用する前は全体的に固相の連続性が高く孔隙は少ない(図2)。施用1日後と4日後に回収した試料は扁平な形の孔隙が増加し、円柱形のペレットを輪切りにしている。また4日後と31日後では扁平な孔隙に加えて、固相中の円形の孔隙が増加している。
  • 顕微鏡で観察すると、施用前の固相は主に植物繊維の細長い外形を残した物質によって構成され、孔隙は固相物質の間に入る扁平な孔隙が主である(図3)。施用1日後のペレットも同様の微細構造だが扁平な孔隙の径が施用前に比べて若干広がる。これは施用後の固相物質の吸水・膨潤に伴う密着のゆるみと考えられる。施用4日後以降は固相物質の細長い形が崩れ、固相の一部は団粒状の形に分離する。また扁平な孔隙に加えて不規則な形の孔隙と円形の孔隙が増加する。
  • 画像解析で定量した孔隙の経時的な増加(図3写真下の数値)は観察結果と整合する。

成果の活用面・留意点

  • 本手法による微細形態観察は、温暖化ガス発生や養分の保持・放出など堆肥ペレットの資材特性を解析する際、形態情報を得るための研究ツールとして活用できる。
  • 揮発性の樹脂やアセトンを使用するため、固化までの作業は換気の良い場所で行う。
  • 圃場から採取したペレットは樹脂含浸前に土を落として風乾するが、風乾に伴い湿潤時と形態が変化する可能性がある。

 具体的データ

図1 薄片の作成手順

図2 スキャナで画像化した牛ふん堆肥ペレットの微細形態(バーが1 mm)

図3 顕微鏡で観察した牛ふん堆肥ペレットの微細形態(バーが0.5 mm)

図2図3注釈 

(久保寺秀夫)

その他

  • 研究課題名:有機性資源の農地還元促進と窒素溶脱低減を中心にした農業生産活動規範の推進のための土壌管理技術の開発
  • 中課題整理番号:214q.2
  • 予算区分:委託プロ(温暖化)
  • 研究期間:2008~2010 年度
  • 研究担当者:久保寺秀夫、山根剛、脇山恭行、荒川祐介
  • 発表論文等:久保寺ら(2009)土肥誌、80(5):522-525