正の相関にある安山岩質黒ボク土の帯磁率と鉄、コバルト、亜鉛の含有率

要約

九州地域の安山岩質黒ボク土の表層土壌では、帯磁率と鉄、コバルト、マンガン、亜鉛の含有率との間には正の相関が、また、モリブデンとの間には負の相関がある。

  • キーワード:安山岩質黒ボク土、帯磁率、微量元素、含有率
  • 担当:九州沖縄農研・土壌環境指標研究チーム
  • 代表連絡先:電話096-242-1150
  • 区分:九州沖縄農業・生産環境(土壌肥料)
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

  磁化し易さを示す帯磁率は鉱物によって様々な値を取るのものの、岩石や堆積物では主に鉄酸化鉱物の種類や量比、その粒径組成などに大きく影響される。一方、黒ボク土ではコバルトやチタンは鉄と同じような動態をとりやすく(Nanzyo et al.2007)、また、安山岩質テフラでは高帯磁率鉱物中の鉄とチタンの合量と亜鉛やバナジウムの微量元素との比はほぼ一定を示す(Shoji et al、1986)。そのため、黒ボク土の岩質を限定すれば、帯磁率の値より鉄やチタン以外に亜鉛やコバルトなど微量元素の含有率も推定できる可能性がある。近年、帯磁率を簡易に計測できる携帯型の機器(図1)の開発されている。そこで、本機を用いて九州内の主要黒ボク土である安山岩質黒ボク土の表層土壌の帯磁率を計測し、帯磁率による土壌中の微量元素含有率の簡易推定の可能性を探る。
 

成果の内容・特徴

  • 安山岩質黒ボク土よりなる畑圃場および隣接する未耕地の表層土壌では、帯磁率と、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛、バナジウム(図略、ただしR=0.598**)、チタン(図略、ただしR=0.824**)の含有率とは正の相関を、またモリブデンとは負の相関を示す(図1)。特に、マンガンやコバルトでは相関が高い。
  • 耕地と隣接耕地の帯磁率の差と、耕地と隣接耕地の含有率の差との相関は、鉄、コバルト、モリブデンで高く、マンガン、亜鉛で低い(表)。同様な傾向は連用圃場での土壌管理の違いに伴う帯磁率の変化と含有率の変化との間にも認められる(図1)。

成果の活用面・留意点                            

  • 計測試料は昭和62年から平成5年にかけて収集した九州内の試験場耕地および隣接未耕地の試料、平成18年に鹿児島県農業開発センター大隅支場の連用圃場で採取した試料である。
  • マンガン、コバルト、亜鉛、モリブデンは動植物の微量必須元素である。特に、モリブデンは植物にとって正常に生育する濃度であっても高濃度であれば、反芻動物への過剰症が懸念される元素である。また、亜鉛は農用地の土壌管理基準元素である。
  • 鉄資材など帯磁率の大きい資材を施用していない安山岩質黒ボク土では、表層土壌中の帯磁率よりマンガン、コバルト、モリブデン、亜鉛の大凡のを含有率を、また、同一地点でれば鉄、コバルト、モリブデンの含有率の経時的変化傾向を推測することが出来る

具体的データ

図1 携帯型帯磁率計と計測試料(左)と携帯用帯磁率計による帯磁率測定の原理(右)

図2 土壌の帯磁率と重金属含有率

表耕地と隣接耕地の帯磁率の差と、耕地と隣接耕地の含有率の差との相関

 

(草場敬)

その他

  • 研究課題名:有機性資源の農地還元促進と窒素溶脱低減を中心とした農業生産活動規範の推進のための土壌管理技術の開発
  • 中課題整理番号:214q.2
  • 予算区分:基盤研究費、交付金プロ(日本型有機農業)
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:草場敬