出穂開花期の気温上昇に対するイネ8品種の稔実率の反応

要約

イネの稔実率は開花期の気温上昇とともに高温域で低下し、その変化傾向は出穂後3日間の日最高気温を用いて推定できる。供試8品種の高温不稔の発生開始温度は34~39°Cの範囲で、気温および穂温を基準とした場合の両方で品種間差が認められる。

  • キーワード:育種、温度勾配チャンバー、高温障害、地球温暖化、熱環境
  • 担当:気候変動対応・水稲高温障害対策
  • 代表連絡先:電話 q_info@ml.affrc.go.jp、Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

熱帯・亜熱帯地域ではイネの高温不稔が度々発生しており、将来の地球温暖化により国内の温帯地域でも開花期の高温による花粉障害型不稔の発生が危惧される。インディカ2品種を含む国内外の8品種について、屋外の気象条件に類似した温度勾配チャンバー試験によって、品種による稔実率の温度反応および高温不稔が発生し始める基準温度の差異を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 高温域でのイネの稔実率は、開花期の気温がある温度までは一定で、それ以上では気温の上昇とともに急激に低下する(図1)。稔実率Fs(%)の低下傾向は出穂後3日間の日最高気温の平均値T(°C)を用いて、以下の関係式で近似できる。
    関係式

    FSmaxは稔実率の最大値(%)、T75は稔実率の低下が実際に問題となる基準温度としてここでは最大値の75%となる温度(°C)、Kは稔実率の減少率に影響を与える係数(°C-1)である。
  • 高温不稔発生の基準温度T75は、出穂後3日間の日最高気温を基準とした場合で34~39°Cの範囲である(表1)。減少係数Kは0.4~1.0の範囲で、最も急激な温度反応を示すところでは2~4°Cの温度の違いによって稔実率が50%以上異なる。
  • 供試8品種の間には、気温と穂温を基準とした場合の両方で不稔発生温度に差がみられ、ジャポニカ品種の中ではあきたこまちの高温不稔耐性が高い(表1)。
  • インディカ2品種は、穂温を基準とした場合は不稔発生温度が中程度だが、気温を基準とした場合には発生温度が比較的高い傾向がある(表1)。これらの品種では、群落構造の特性(穂が止葉の下方に位置すること)や蒸散特性(気孔開度が大きいこと)によって高温条件で穂温が低いものと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 西南暖地において、今後の温暖化に対応した育種選抜の基礎情報として活用できる。
  • 将来の気温上昇や暑夏年における高温不稔の発生予測に活用できる。
  • ポット試験により得られた成果であり、根圏が制限されていることなどから、圃場での発生温度はこれよりも若干高い可能性がある。

具体的データ

 図1、表1

その他

  • 中課題名:気候変動下における水稲の高温障害対策技術の開発
  • 中課題番号:210a2
  • 予算区分:委託プロ(気候変動)、交付金
  • 研究期間:2005~2012年度
  • 研究担当者:丸山篤志、W.M.W. Weerakoon、脇山恭行、大場和彦
  • 発表論文等:Maruyama et al. (2013) J. Agron. Crop Sci., in print