高温下の高湿度は育成前期乳牛の暑熱ストレスを増大する

要約

育成前期乳牛に対する高温の影響は、温度28°C相対湿度(RH)60%の環境では呼吸数の増加のみに現れたが、28°CRH80%では、呼吸数および体温の上昇に加え血液性状の変化、摂取量の減少、増体量の低下にも現れ、33°Cでは高湿度の影響がさらに大きくなる。

  • キーワード:高湿度暑熱環境、育成前期乳牛、栄養素代謝
  • 担当:気候変動対応・畜産温暖化適応
  • 代表連絡先:電話 q_info@ml.affrc.go.jp、Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

分娩の早期化に伴い、育成雌牛の増体速度は上昇し、また、近年になり温暖化の進行も懸念されていることから、育成雌牛はこれまでより高温の影響を受けやすい環境にあるといわれている。また、日本の夏季は高温多湿であり、高温環境下での高湿度も生産性へ負の影響をもたらす大きな要因の一つと考えられる。そこで本研究では、育成前期乳牛を相対湿度60%あるいは80%の高温環境下で飼養し、生理反応および代謝などを測定することにより、高温環境下における高湿度が育成前期牛の生理および栄養素代謝に及ぼす影響について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 直腸温および呼吸数は、環境温度の上昇とともに増加するが、その上昇の程度はRH80%の方が大きく、また、低い温度(28°C)から増加が認められる。乾物摂取量はRH80%では28°Cから大きく低下するが、RH60%では33°Cにおいてもほとんど低下しない(表1)。
  • 血漿中尿素態窒素、グルコース、コレステロールおよび甲状腺ホルモン(トリヨードサイロニン)濃度は、RH80%では28°Cから低下するが、RH60%では28°Cではほとんど影響はなく、33°Cにおいて低下が認められる(表2)。
  • 脂肪あるいはタンパク質への体組織蓄積は、RH60%では33°Cにおいて体タンパク質蓄積が若干低下するものの28°Cでは影響を受けない。しかし、RH80%では環境温度の上昇にともない体タンパク質および体脂肪への蓄積量は大きく減少する。また、RH80%下における20および28°Cでは体タンパク質より体脂肪への蓄積エネルギーの配分が多かったが、33°Cでは体脂肪蓄積エネルギー量のみ負となる(図1)。
  • 以上の結果より高温下での育成前期乳牛において、RH80%では28°Cから栄養素代謝および生理反応に負の影響が現れ、33°Cでは摂取量の激減、体脂肪の動員が認められ、ほとんど影響を受けなかったRH60%時とは異なる。

成果の活用面・留意点

  • 暑熱環境下におけるホルスタイン種牛の育成指針を作成する際の基礎資料となる。
  • 相対湿度が80%を超える日の多い日本の夏季において、酪農現場で暑熱の影響を考える場合には気温だけではなく湿度についても十分に注意を払う必要がある。
  • 本実験の環境温度は日内変動がないため、同じ平均気温であっても日内変動のある一般環境よりも、負の影響を大きく評価している可能性がある。

具体的データ

 表1~2、図1

その他

  • 中課題名:畜産由来の温室効果ガス制御技術の高度化と家畜生産の温暖化適応技術の開発
  • 中課題番号:210c0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(地球温暖化)
  • 研究期間:2002~2009年度
  • 研究担当者:野中最子、樋口浩二、田鎖直澄、田島清、栗原光規、永西修、田中正仁
  • 発表論文等:野中ら(2012)、日畜会報、83(2):133-144