ハスモンヨトウのオスは中国などから九州・韓国南部へ長距離移動する

要約

ハスモンヨトウのオスは、5月から7月中旬の初夏までの期間に、低気圧や前線の南部に発生する南西風を利用して、九州や韓国南部に飛来することがあると推定される。その飛来源は、流跡線解析などから本種が周年発生している中国南部と台湾と考えられる。

  • キーワード:ハスモンヨトウ、長距離移動
  • 担当:地球温暖化・暖地病害虫管理
  • 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ハスモンヨトウは、食葉性の害虫で寄主植物の範囲が広く、大豆など畑作物、野菜、花き、果樹まで被害が及ぶ。本種は熱帯起源で、どの生育ステージでも休眠性を示さないため、冬の気温が下がる中緯度地帯の日本では、南部の温暖な一部地域やビニールハウスの中でのみ越冬できると考えられている。そのため、夏期に発生する本種個体群の起源について関心が持たれ、土着個体群の他、長距離移動による海外からの飛来侵入の影響が議論されてきた。この研究では、5月から7月中旬の初夏までのシーズン初期を対象とし、ハスモンヨトウのオスが海外から飛来することがあることを、間接証拠を用いて推定する。

成果の内容・特徴

  • フェロモントラップを用いた5年間の調査で、九州や九州と同緯度にある韓国済州市、中国杭州市でハスモンヨトウのオス誘殺数が同じタイミングで増加する例が見つかる(図1の縦線)。
  • 上の誘殺ピークとその前3日間を起点として24~36時間について後退流跡線解析を行うと、中国南部や台湾から調査地点をつなぐ気流が確認される。(図1、2)。
  • 中国南部や台湾では周年でハスモンヨトウの発生が確認されることから、これらの地帯が調査地点に飛来するハスモンヨトウの飛来源地域であると推定される。
  • 1の誘殺ピークが起こる時の気象条件については、前線を伴った低気圧や前線が、調査地点の北側を通過し、調査地点で南西風が吹いていた場合が多い(図3)。
  • 以上の状況証拠と過去の報告(留意点に記載)を総合して、ハスモンヨトウのオスが、5月から7月中旬の期間に中国南部や台湾から長距離移動をして、東アジアの中緯度地域である九州や韓国南部などに飛来することがあると推定できる。

成果の活用面・留意点

  • 3日齢のハスモンヨトウのオスは、最大で18時間以上宙づり飛翔する報告がある。また、東シナ海上など海上でハスモンヨトウのオスが捕獲された報告がある。ハスモンヨトウの秋季の台風による飛来についても報告がある。詳細については、発表論文の参考文献を参照されたい。
  • ハスモンヨトウのメスの移動解明と、九州以外の国内の地域への移動については今後の課題である。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:暖地多発型の侵入・新規発生病害虫の発生予察・管理技術の開発
  • 中課題番号:210d0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:大塚彰、藤條純夫(佐賀大)
  • 発表論文等:Tojo S. et al. Appl. Entomol. Zool.(印刷中)