安価な小型データロガーを用いた土壌酸化還元電位の自動経時計測方法

要約

安価な小型データロガーを利用して、土壌の酸化還元電位を自動で経時的に計測できる。回路のインピーダンスを100MΩ以上、一計測を0.5秒間とし、それ以外の待機時間は回路を遮断し、1時間間隔で白金電極と比較電極の間の電位差を計測する。

  • キーワード:酸化還元電位、安価、自動経時計測、水田、畑地
  • 担当:新世代水田輪作・暖地水田輪作
  • 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Fax:096-242-7769、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・水田作・園芸研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

水田において、土壌が湛水されると、酸素が消失し、さらに硝酸イオン、マンガン、鉄などが還元され、やがてメタンや硫化物が生成する。酸化還元電位(Eh)の測定は、このような化学反応が起きうる条件になっているかを把握するために有効な方法であり、水稲に害を及ぼす硫化物の生成や、温暖化を促進するメタンの発生などを評価できる。これまで、酸化還元電位を自動で経時的に計測するには、高価なデータロガーや制御装置を用いて配線を組む必要があり、利用が限られていた。したがって、手動で計測することが一般的となり、経時的な計測には手間がかかった。近年、安価な小型データロガーが販売されたため、これを用いて安価に酸化還元電位を自動で経時的に計測する方法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 白金電極と比較電極の間の電位差を小型データロガーで計測する。その際、計測時の電位消耗がほとんどないように、回路のインピーダンスを100MΩ以上とし、計測時以外の待機時間は回路を遮断する電池駆動式の基板を経由させる(図1)。
  • 電位を消耗しないように、1回の測定時間を0.5秒とし、計測間隔を1時間とすると、市販の計器で手動計測した値とほぼ同じ値が、本法の自動計測で得られる(図2)。
  • 作成した装置の仕様は、計測範囲が酸化還元電位として-1.09~1.51V、分解能が0.26mV、屋外に設置でき、記録データ数が60,000(1時間間隔で2,500日分)で、電池消耗の目安は2年間で、水稲や麦類の一作を超える充分な期間の計測値が記録できる。
  • 水田の作土の酸化還元電位の推移を自動計測できる。一例として、水田で湛水直播した際の、種子が無い部分の土壌と種子近傍の土壌の酸化還元電位の推移を計測した結果、両者の差異と、数日で酸化還元電位が低下する傾向と、日変動が観察できた(図3)。
  • 畑地の作土の酸化還元電位の推移を自動計測できる。一例として、大麦畑の作土を計測した結果、降雨によって酸化還元電位が低下する現象が観察できた(図4)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:農業関係の試験研究関係者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:年に数十台
  • 本法は特許として登録されている。
  • 本特許を利用した計測装置が、藤原製作所から簡易土壌Eh計(FV-702)として販売されている。1台(1ch)の価格は、電極を別として、3万円ほどである。
  • 酸化還元電位は、局所的条件に影響を受けやすいので、複数台での計測が望ましい。比較電極は並列につなぐことによって、複数台で兼用できる。
  • 電極は、土壌と密着させ、長期間動かないように、支柱等で固定する。また、使用前後に、標準試薬を用いて酸化還元電位を計測し、電極の劣化が生じてないか確認する。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:新規直播技術を核とした安定多収水田輪作技術の開発
  • 中課題整理番号:111b5
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2013年度
  • 研究担当者:原嘉隆、土屋史紀
  • 発表論文等:
    1)原嘉隆、土屋史紀「湿潤土壌の酸化還元電位を測定する測定装置、および 湿潤土壌の酸化還元電位を測定する測定方法」特許第5366274 号
    2)Hara Y.(2013) Plant Prod. Sci. 16: 50-60, 61-68