収穫前の玄米横断面から乳心白粒の発生を推定する装置

要約

収穫前に玄米横断面の白濁の様相を画像解析することで収穫時の乳心白粒の発生程度を推定する装置である。本装置により収穫前1週間頃までに乳心白粒の多発を推定できるため、農業共済の被害申告や共乾施設への仕分け入荷への活用が期待される。

  • キーワード:乳心白粒、玄米横断面、被害予測、水稲、気象災害
  • 担当:気候変動対応・水稲高温障害対策
  • 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・水田作研究領域
  • 分類:過年度普及成果情報(2011)

背景・ねらい

近年、水稲登熟期の不良気象条件による玄米品質低下が頻発している。九州南部の2007年産早期水稲では、日照不足と台風に伴う乾燥風で乳白粒あるいは心白粒(以降、乳心白粒)が大量に発生し、規格外米が4~7割を占めるという深刻な被害に至った。こうした気象被害に対し農業共済制度の適用を受けるには、収穫前1週間頃までには農家が被害申告を行う必要がある。しかし、2007年の場合、稲の外観からは乳心白粒の多発を予想できなかったため申告が行われず、多くの農家が被害補償を受けられないという問題が発生した。そこで、本研究では収穫前の玄米を用いて乳心白粒の発生を推定する手法を開発し、その装置化を図る。

成果の内容・特徴

  • 玄米中のデンプン蓄積およびそれに伴う透明化は、玄米の中心から表層に向かって順次広がっていく。このため、図1のように玄米内部にデンプン蓄積の粗い白濁部が残り表層側が透明化している場合、白濁部のデンプン蓄積はすでに終了し収穫時までそのまま白濁部として残り、乳心白粒になると判断できる。
  • 1の見方に基づいて、玄米横断面の内部に白濁、その外側に透明部を認めた場合に乳心白粒と判定することにより、収穫期の乳心白粒の多発を収穫前1週間頃に推定することができる(図2、3)。穀粒判別器では玄米表面から品質を判定するため、玄米表層が透明化するまでは乳心白粒の多発を精度良く推定することは困難である。
  • 本装置は上記の推定手法を基に開発され、1)100粒の玄米を一度に簡易に切断する機器と、2)そこで得られた切断面をスキャナーで撮像する機器、および、3)得られた画像の白濁の解析から乳心白粒を自動カウントする機器で構成されており(図4)、合計所要時間は約1分30秒と、迅速に解析できる。
  • 農家圃場での推定にあたっては、圃場内の数地点から生育中庸な数株を刈り取り、生脱穀した籾を水分12%以下に乾燥し(例えば、40°Cで15時間程度)、籾すり後、各株100粒を本装置に用いることで各圃場の代表的な値を得る。

普及のための参考情報

  • 普及対象 農業共済組合、公設試験研究機関、農業改良普及センター、JA等で農業共済制度における適確な被害申請および共乾施設への仕分け入荷への活用が期待される。
  • 普及予定地域・普及台数 北陸から九州にかけて2016年1月時点で41台の販売実績がある。
  • その他 本手法で推定できる品質低下は、その推定原理から、登熟初・中期に被害を受けて発生する乳心白粒に限定され、背白粒、基部未熟粒などは対象外となる。乳心白粒の推定原理については「イネの高温障害と対策」(森田 2011、農文協 pp1-143)を参照されたい。本装置の開発は、2011年農林水産研究成果10大トピックスに選定された。

具体的データ

図1~図4

その他

  • 中課題名:気候変動下における水稲の高温障害対策技術の開発
  • 中課題整理番号:210a2
  • 予算区分:交付金、競争的資金(実用技術)
  • 研究期間:2008~2015年度
  • 研究担当者:森田敏、田中明男(鹿児島農総セ)、藪押睦幸(宮崎総農試)、山根一城(鹿児島農総セ)、角朋彦(宮崎総農試)、若松謙一(鹿児島農総セ)、脇山恭行、和田博史、江原崇光(ケット科学)、岡野明裕(ケット科学)
  • 発表論文等:
    1) 森田ら「収穫予定米の断面撮像画像を用いた収穫時品質予測システム及び収穫時品質予測方法」特許第5716234号(2015年3月27日)
    2) Morita S. et al. (2016) Agron. J. 印刷中