圃場整備がサギ類の水田利用に及ぼす影響

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要約

我が国の一部のサギ類は主な餌場を水田に依存している。圃場整備によって排水路がコンクリート3面張りになった水田では,土水路の水田に比べて餌となる水生動物が少なく,チュウサギ(準絶滅危惧種)の出現個体数が減少する。

  • 担当:農業研究センター・病害虫防除部・鳥害研究室
  • 連絡先:0298-38-8825egretta@narc.affrc.go.jp
  • 部会名:生産環境
  • 専門:生態
  • 対象:稲作
  • 分類:研究

背景・ねらい

平成7年に閣議決定された「生物多様性国家戦略」によって,農地においても生物多様性の保全は重要な課題とされており,また,水田の公益的機能の一つとして生物生息地機能が挙げられる。しかし,圃場整備による排水路のコンクリート化や乾田化が進んでおり,野生生物にとっての水田環境は大きく変化している。 こうした圃場整備が水田環境への依存度が高いサギ類の生息状況に及ぼす影響を明らかにして,新たな施工技術の開発に向けた基礎資料とする。

成果の内容・特徴

  • 茨城県南部の平坦地において圃場整備によってコンクリート3面張りの排水路となっている水 田と土水路のままの水田を,調査Aでは各6ヵ所ずつ (30~70ha),調査Bでは各19ヶ所と10ヶ所(10ha)を選び,サギ類の個体数を繰り返しカウン トした。また,調査Aでは水路と水田内,畦にい る餌動物をトラップと網を用いて捕獲,計量した。
  • 調査A(5~8月),調査B(春と秋)のいずれにおいても,陸生動物を主食とするアマサギの数は 水路タイプで違わなかったのに対し,水生動物を主食とするチュウサギは,コンクリート排水路 の水田で少なかった( 図1 , 図2 )。
  • 土排水路の水田に比べて,コンクリート排水路の水田では陸生動物は同程度であったが,カエル 類幼体(オタマジャクシ)以外の水生動物の現存量は半分に満たなかった( 図3 )。
  • 以上の結果から,水路を深いコンクリート3面張りにする関東地方で一般的な圃場整備は,水生 動物の減少を通じてチュウサギによる水田利用の減少を招いていると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 本州中部以南の水田地帯では6種のサギ類が生息し,うちアマサギとチュウサギはもっぱら水田 や休耕田で餌を採る(発表論文の朝倉書店[1998]等参 照)。チュウサギは,かつて日本でもっとも多かったサギであるが,1960年代以降ほかのサギ類 に比べて著しく減少し,環境庁のレッドリストにおいて国際 基準にしたがって準絶滅危惧種とされている。
  • コンクリート排水路で水生動物が少ない理由としては,排水路そのものが生息に適さないこと と,排水路と水田の往来が難しいことが挙げられる。調査した圃場整備水田は,整備後数年以上 経過しており,工事そのものによる影響ではない。
  • 本成果は,水田の生物生息地機能を評価し,向上させるための第一段階であり,今後具体的な改 善策につながる研究を目指している。

具体的データ

図1:調査Aでの水路タイプによるサギ個体数の違い
計12ヵ所の調査地での5月~8月における月2回の平均値。pの値は水路タイプによる違いについての検定結果 (2-way ANOVA)。
図1:調査Aでの水路タイプによるサギ個体数の違い 計12ヵ所の調査地での5月~8月における月2回の平均値。pの値は水路タイプによる違いについての検定結果 (2-way ANOVA)。

 

図2:調査Bでの水路タイプによるサギ個体数の違い
春5回、秋3回の平均値を示す。pの値は水路タイプによる違いについての検定結果 (2-way ANOVA)。
図2:調査Bでの水路タイプによるサギ個体数の違い 春5回、秋3回の平均値を示す。pの値は水路タイプによる違いについての検定結果 (2-way ANOVA)。

 

図3:土水路の水田に対するコンクリート水路の水田での餌動物の量
乾燥重量または個体数を5月~8月で平均し,相対値で示す。3種のカエル類は幼体を含まない。*=1%水準で有意差あり,マークのないものは危険率0.2以上 (2-way ANOVA)。
図3:土水路の水田に対するコンクリート水路の水田での餌動物の量 乾燥重量または個体数を5月~8月で平均し,相対値で示す。3種のカエル類は幼体を含まない。*=1%水準で有意差あり,マークのないものは危険率0.2以上 (2-way ANOVA)。

 

その他

  • 研究課題名:水田における湿地性鳥類の多様性とその評価手法の確立
  • 予算区分 :総合的開発[貿易と環境],科・フェロ
  • 研究期間 :平成10年度(平成8年~12年)