糸状菌バイオマスの指標物質としての土壌リン脂質18:2ω6

要約

畑土壌から抽出したリン脂質中の18:2ω6(リノール酸)は大部分が糸状菌バイオマスに由来する。有機物施用直後には土壌糸状菌の増殖に伴いバイオマス当たりのリン脂質18:2ω6含量が増加することが明らかになった。

  • 担当:農業研究センター・土壌肥料部・畑土壌肥料研究室
  • 連絡先:0298-38-8828
  • 部会名:生産環境
  • 専門:土壌
  • 対象:微生物
  • 分類:研究

背景・ねらい

土壌中の糸状菌バイオマスは一般に直接検鏡法による菌体の重量換算値が用いられているが、糸状菌菌糸長の計測に熟練を必要とし、労力がかかる。土壌リン脂質には土壌糸状菌の主要脂肪酸であり、かつ土壌細菌にはほとんど含まれない18:2ω6(リノール酸)が含まれている。そこで糸状菌バイオマスとの関係を 調べるため、各種の畑土壌について、13C-酢酸ナトリウムのリン脂質18:2ω6への取り込みの解析及びリン脂質18:2ω6含量と直接検鏡法、クロロホルムくん蒸抽出法によるバイオマスの比較を行った。

成果の内容・特徴

  • 淡色黒ボク土、灰色低地土において、13C-酢酸ナトリウムの添加によりリン脂質18:2ω6へ13C が取り込まれたが、シクロヘキシミドを添加して糸状 菌の生育を阻害すると13Cの取り込みは検出されなかった。リン脂質18:2ω6へ取り込まれた 13Cは、クロロホルムくん蒸処理24時間により糸状菌を 死滅させると87%(淡色黒ボク土),75%(灰色低地土)減少した( 図1 )。このことからリン脂質18:2ω6は大部分が糸状菌バイオマスに由来することが明らかとな った。
  • 淡色黒ボク土、灰色低地土、赤色土、厚層多腐植質黒ボク土を乾土0.5%のグルコース添加、セ ルロース添加、無添加の条件で3-56日間25°C暗所で培養 し、糸状菌バイオマスとリン脂質を分析した。糸状菌バイオマスとリン脂質18:2ω6含量の間 には有意な相関が認められたが相関係数は低かった( 図2 A)。リン脂質18:2ω6含量の高い土壌では相関係数は0.64**( 図2 B)とやや高い値となった。
  • 淡色黒ボク土畑圃場に豚ぷん堆肥3.0kg/m2を施用後7日目のリン脂質18:2ω6含量は施用前の約 10倍に増加した( 図3 )。 これは微生物バイオマス(クロロホルムくん蒸抽出法)から細菌バイオマス(リン脂質脂肪酸 含量から換算)を差し引いた値の変化に比べ大きかった。同様な傾 向は青刈りナタネ施用時にも見られ、有機物施用直後には土壌糸状菌バイオマスあたりのリン 脂質18:2ω6含量が増加することが明らかになった。

成果の活用面・留意点

  • リン脂質脂肪酸の測定法の修得は直接検鏡法に比べ簡易で労力も小さい。
  • 施用有機物中に植物葉由来のリン脂質18:2ω6が多量に存在する場合にはその量を考慮する必 要がある。

具体的データ

図1
:土壌リン脂質18:2ω6に取り込まれた13Cのクロロホルムくん蒸による変化
図1 :土壌リン脂質18:2ω6に取り込まれた13Cのクロロホルムくん蒸による変化

 

図2
:土壌リン脂質18:2ω6含量と土壌糸状菌バイオマスの関係
図2 :土壌リン脂質18:2ω6含量と土壌糸状菌バイオマスの関係

 

図3
:豚ぷん堆肥施用後の土壌リン脂質18:2ω6と微生物バイオマスの変動
図3 :豚ぷん堆肥施用後の土壌リン脂質18:2ω6と微生物バイオマスの変動

 

その他

  • 研究課題名:作物根と機能性有機物の相互作用の解明
  • 予算区分 :経常・科振調(重点基礎)
  • 研究期間 :平成10年度(平4~10年)