生産計画と連動した経営財務諸表の推定手法

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要約

生産計画に基づいて、損益計算書、キャッシュフロー計算書、貸借対照表を推定する手法である。この手法を用いることで、農業経営における生産計画と財務分析を統合することができ、生産計画を財務リスクの面からも評価することが可能になる。

  • キーワード:生産計画、財務諸表、キャッシュフロー計算書、財務リスク
  • 担当:中央農研・経営計画部・経営設計研究室
  • 連絡先:電話029-838-8414、電子メールnanseki@affrc.go.jp
  • 区分:共通基盤・経営
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

農産物市場における市場原理の一層の導入に伴い経営発展の自由度が増大する一方で、価格変動等に起因する財務益変動リスクが増大する傾向がある。収益変動リスクは経営破綻にも結びつく財務リスクに影響を及ぼす。収益変動リスクや財務リスクを定量的に推定するためには財務諸表が必要になる。そこで、生産計画に基づいて、損益計算書、キャッシュフロー計算書、貸借対照表を推定する手法を開発した。

成果の内容・特徴

  • 従来の経営診断では、生産・販売や財務など過去の経営行動の記帳を行い、その結果に基づく診断指標を算出し、財務面や生産効率などの観点から分析・評価してきた(図1中1)。一方、経営計画論では、将来の経営行動案を対象に、経営資源の制約の下で経営戦略・経営目標の達成を計る最適な生産・販売・財務行動を検討してきた(同2)。これに対し、本研究で新たに開発した「生産計画と連動した財務諸表の推定手法」は、生産計画を含む経営計画の結果から財務諸表や診断指標を推定し(同3)、これを実績値に基づく自己の診断指標との比較に使用して経営診断を行うものである(同4)。また、実績値および生産計画に基づく診断指標の経営間比較により、対象経営の特徴を分析することも可能である(同5)。これにより、複数の生産計画から予想される経営成果を事前に比較・分析し、あるいは自己または他の経営の実績と比較・分析することができ、より良い生産計画を作成することが可能になる。つまり、生産計画を財務リスクの面からも評価できるようになった。
  • 本推定手法の妥当性を検証するため、表計算ソフトMS-Excel(VBA言語利用、図2)上で作動する財務リスク推定ソフトウエアを試作した。新潟県の事例データを用い推定手法が想定どおり作動することを確認した。試作システムでは、旬・月・年単位で推計が可能であり、旬別キャッシュフロー計算書等が利用できる。財務諸表の推定は旬別に以下の手順で行う。(1)生産計画および関連計画から損益計算書を推定する、(2)直接法によってキャッシュフロー計算書を損益計算書および関連計画から推定する、(3)貸借対照表をキャッシュフロー計算書から推定する、(4)財務指標を財務諸表から推定する。生産計画をベースに財務諸表を推定する目的は、生産計画や設備投資計画を実施した場合の財務的な影響を事前に推定し、経営意思決定を支援することである。

成果の活用面・留意点

本手法は、農業経営指導における活用が期待できるが、財務諸表の実績値が必要であり、法人経営が主な対象となる。また、実用化には、試作システムの実証試験および実用化に向けた改良・操作性の向上などが必要である。

具体的データ

図1 生産計画と経営診断の統合化

 

図2 試作システム画面例

その他

  • 研究課題名:財務シミュレーション手法の開発、リスク管理を主体とした経営計画策定支援ソフトウェアの開発
  • 予算区分:交付金、連携実用化研究
  • 研究期間:2000~2002、1999~2001年度
  • 研究担当者:南石晃明・松下秀介・相原貴之(九州沖縄農研)
  • 発表論文等:南石ら(2002) 農業経営研究 40(2):11-22.