バラ科植物火傷病菌の植物体における存在の直接的・迅速な検定法

要約

ガラス繊維ろ紙を用いた植物体からのDNA 抽出法と、火傷病菌(Erwinia amylovora)のrpoD 遺伝子の一部分を特異的に増幅するEarpoDプライマーを用いたhot-start PCR 法により、植物体における火傷病菌の存在を直接かつ迅速に検定できる。

  • キーワード:火傷病、Erwinia amylovora、ナシ枝枯細菌病菌、Erwinia pyrifoliae、プライマー、PCR、rpoD遺伝子
  • 担当:中央農研・病害虫検出同定法研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8931
  • 区分:共通基盤・病害虫(病害)、関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(病害)
  • 分類:行政・普及

背景・ねらい

火傷病は、国内未発生のリンゴ、ナシ等のバラ科植物の重要病害であり、農林水産省植物防疫課が作成した「火傷病防疫指針」に基づき、植物防疫所及び都道府県は監視と病原細菌の迅速な検出・同定のための体制を敷き、早期発見に努めている。また、火傷病類似症状を引き起こす類縁細菌(ナシ枝枯細菌病菌、Erwinia pyrifoliae等)も知られているので、それらと識別できる迅速な検査方法が求められている。 本研究では、火傷病菌検定用のrpoD 遺伝子の一部分を特異的に増幅するプライマーであるEarpoDプライマー(Matsuuraら、2008)の有効性を精査するために、多数の菌株を用いてその特異性を詳細に調査し、火傷病と考えられる症状を起こした植物体における火傷病菌の存在をPCRによって直接検定する方法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 分離国及び分離宿主が異なる火傷病菌71菌株、火傷病菌と近縁な細菌であるナシ枝枯細菌病菌14菌株及びE. pyrifoliae 2菌株について、EarpoDプライマーセット(EarpoD2f:5’-GGCGCGTGAAAAGTTCAA-3’,EarpoD1r:5’-AGGCCGCGGTTCACATCT-3’)によるhot-start PCR (94°C1分、65°C45秒、72°C1分を30サイクル)を行うと、火傷病菌からは断片長375bpのDNAが増幅されるが、ナシ枝枯細菌病菌およびE. pyrifoliaeではDNAの増幅は全く認められない。
  • ニホンナシ花器から分離された表生菌294株(酵母16株も含む)について、火傷病菌特異的なプライマー3種(Bereswillら1992、 Guilfordら1996、 EarpoD)を用いてPCRを行うと、EarpoDプライマーの特異性が最も高く、次いでGuilfordプライマーの特異性が高い(表1)。
  • 火傷病菌を接種したヒメリンゴ新梢の黒変部と健全部の境界部位からは、ガラス繊維ろ紙を利用したDNA抽出法(平成16年度関東東海北陸農業・生物工学部会)とEarpoD、Guilfordプライマーを用いたhot-start PCRにより、直接火傷病菌を検出することが可能であり、その際の検出限界は105cfu/部位(5mm)である(図1、表2)。

成果の活用面・留意点

  • 非特異反応を避けるためには、抗Taqポリメラーゼ抗体を用いたhot-start PCRで行う必要がある。
  • 植物組織片を用いた直接PCR検定法は、「火傷病防疫指針」の同定法において、迅速性・正確性を改良するために使われることを想定している。
  • 本手法では、典型的な病徴を示していない菌濃度が低い部位からは火傷病菌の存在を検定できない。黒変等の典型的な病徴を示している場合にも、検定の誤りを避けるため、判断は複数の検体の検査結果に基づく必要がある。

具体的データ

表1 ニホンナシ花器表生菌株(294菌株)aを用いた3種類の火傷病菌用PCRプライマーセットの特異性の比較

表2 火傷病菌接種ヒメリンゴ新梢のPCRによる直接的検定結果と分離結果

図1 植物体から火傷病菌の存在を検定するための直接的方法(1)と分離法(2)

その他

  • 研究課題名:病害虫の侵入・定着・まん延を阻止するための高精度検出・同定法の開発
  • 課題ID:521-b
  • 予算区分:基盤、委託プロ(実用技術)
  • 研究期間:2006~2007年度
  • 研究担当者:畔上耕児、松浦貴之(現在、横浜植防)、田平 剛、井上康宏、佐々木厚子(果樹研)、
                       島根孝典(果樹研)、水野明文(横浜植防)
  • 発表論文等:Matsuura et al. (2008) Acta. Hort. 793: 149-153
                       松浦、畔上(2008) 関東病虫研報、55:61-65