高温耐性に優れ、寿司米に向く水稲新品種「笑みの絆」

要約

水稲「笑みの絆」は寒冷地南部では中生に属し、高温耐性が強く、粘りが少なく硬めの良食味品種で、寿司米への利用が期待される。

  • キーワード:イネ、高温耐性、調理用、寿司、笑みの絆
  • 担当:中央農研・低コスト稲育種研究北陸サブチーム
  • 代表連絡先:電話025-526-3239
  • 区分:関東東海北陸農業・北陸・水田作畑作、作物
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

「食の外部化」の進展により,今や主食用米需要の3割弱を外食・中食産業が占める状況となっており、調理時の作業性に優れ、商品の質の向上に繋がる米の開発が期待されている。特に、寿司については、酢の入りが良く、ほぐれやすい特性が求められる。一方、近年の温暖化傾向による米の品質低下が問題になっており、これに対処するため、登熟期の高温耐性に優れた品種が求められている。そこで、高温耐性に優れ、寿司米に適する良質良食味品種の開発を目指す。

成果の内容・特徴

  • 「笑みの絆」は、粘りに頼らない良食味品種の育成を目標として、粘りの少ない良食味品種「ハツシモ」から育成された「岐系120号」と良食味系統「収6602」の交配後代から育成された系統である。
  • 出穂・成熟期は「コシヒカリ」よりやや遅く、育成地では"中生の晩"である(表1)。
  • 「コシヒカリ」に比較して、稈長および穂長は短く、穂数は多く、草型は"穂数型"である。耐倒伏性は「コシヒカリ」より強い"やや強"で、収量性は、標肥区では「コシヒカリ」よりやや少収であるが、多肥区では「コシヒカリ」より多収である(表1)。
  • いもち病真性抵抗性遺伝子はPiaおよびPiiを持つと推定され、圃場抵抗性は、葉いもちは"やや弱"、穂いもちは"弱"である。穂発芽性は "やや易"である(表1)。
  • 登熟期の高温耐性は"強"であり、外観品質の安定性に優れる(表2)。
  • 「笑みの絆」の寿司飯の外観、なめらかさは「ササニシキ」に優り、ほぐれ易く、粘りは「ササニシキ」より弱い。硬さは「ササニシキ」、「コシヒカリ」の古米より硬く、総合では「ササニシキ」、「ハツシモ」に優る(表3)。民間企業による業務用炊飯特性調査では、飯粒がしっかりしていて、酢飯に向くという評価である(表4)。
  • 実需である寿司店(山口県1店、東京都2店、大阪府1店)の評価は「酢の入りも良く、粘らずにふっくらと握れ、寿司米として使いやすいお米である。」 である。

成果の活用面・留意点

  • 寿司米への利用が期待される。
  • 高温耐性が強いため、近年の温暖化傾向下でも安定した外観品質が期待できる。
  • 適応地域は「コシヒカリ」等の熟期の作付が可能で、冷害の危険性の少ない東北南部、北陸および関東以西である。
  • 耐倒伏性が"やや強"であるが、極端な多肥栽培では倒伏のおそれがあり、タンパク質含有量の増加による食味低下を招くため、適切な肥培管理を行う。
  • いもち病圃場抵抗性が弱いので、適期防除に努める。
  • 穂発芽性が"やや易"であるため、適期刈り取りに努める。
  • 障害型耐冷性が弱いため、冷害の危険のある地域での栽培は避ける。
  • 縞葉枯病には"罹病性"であるため、常発地での栽培には注意する。

具体的データ

表1.「笑みの絆」の特性(調査地:新潟県上越市)

表2.登熟期の高温耐性(2010年度)

表3.寿司飯としての食味比較試験(育成地 2010年度)

表4.株式会社アイホー炊飯総合研究所における成績

その他

  • 研究課題名:直播適性に優れ、実需者ニーズに対応した低コスト業務用水稲品種の育成
  • 課題ID: 311a
  • 予算区分: 基盤、交付金プロ(温暖化プロ)、委託プロ(加工プロ4系)
  • 研究期間:2002~2010年度
  • 研究担当者:三浦清之、笹原英樹、重宗明子、長岡一朗、後藤明俊、小牧有三