ガラス室内におけるイネ稲こうじ病の品種抵抗性評価法

要約

ガラス室内で主茎を生育させた穂ばらみ期のイネ葉鞘に、液体培養で得たイネ稲こうじ病菌の分生子懸濁液を注射接種し、発病した病粒数を調査し、基準品種と比較することで、品種の抵抗性程度を評価できる。

  • キーワード:イネ稲こうじ病、品種抵抗性、分生子、注射接種、ガラス室
  • 担当:新世代水田輪作・重粘地水田輪作
  • 代表連絡先:電話 025-523-4131
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・水田利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イネ稲こうじ病は、穂に病粒が生じる病害で、多雨・低温年に多発生する。近年、飼料用稲での多発生や食用米への病粒混入による規格外米が問題になっている。本病に対する品種の抵抗性程度は、圃場で評価されることが多いが、出穂期や気象の変動に大きく影響される。このため、その評価に多くの年数を必要とする。一方、本病を人工接種により発病させる方法(久田ら1936、藤田ら1989)が開発されているが、品種抵抗性を評価する方法として確立されていない。そこで、接種による品種抵抗性評価法の開発を試み、抵抗性育種の基礎とする。

成果の内容・特徴

  • 稲こうじ病菌の培養、イネへの接種とその後の管理は次の方法に従う(図1)。
    1)ポリポット(直径10.5cm)に5粒のイネ種子を播種し、佐竹(1972)の方法に準じて分げつを切除しながら主茎を育成し、接種に適した均質な穂ばらみ期のイネを得る(図1)。品種あたり4ポットを用いる。
    2)コニカルチューブ50mlに2%ショ糖加用ジャガイモ煎汁培地25mlを入れ、稲こうじ病菌の乾燥含菌オオムギ粒を加えて振とう培養(120rpm)する。培養4日目には2.5×106個/ml以上の濃度の分生子が得られる。
    3)穂ばらみ期の葉鞘に分生子懸濁液(5×105個/ml)2mlを注射接種し、16°Cで2日間、26°Cで相対湿度100%に5日間静置する。
    4)接種イネは、ガラス室内で管理する。発病後に無作為にポットあたり2穂(合計8穂)を選び、穂あたり病粒数を計数する。
  • 抵抗性の評価は、抵抗性が弱品種の「夢あおば」と強品種の「奥羽351号」を基準に穂あたり病粒数を比較して行う。「とりで1号」、「駒の舞」、「裡里」、「アキニシキ」、「蟾津」の接種結果は、既報と同程度と判定される。これら5品種を含む16品種の抵抗性程度が評価できる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 乾燥含菌オオムギ粒は、滅菌した2%ショ糖含有オオムギ粒に稲こうじ病菌を移植して生育後、乾燥させて作成する。乾燥含菌オオムギ粒は、接種に利用するまで5°Cで保存する。
  • 培養した分生子懸濁液を新しい培地に移植すると、2~3日間で接種に必要な分生子数を準備できる。培養分生子は振とう培養を続けると少なくとも1週間は利用できる。

具体的データ

図1 稲こうじ病菌の培養から接種、発病調査までの方法
図2 接種による抵抗性程度の違い(試験1は2007年、試験2は2008年に実施)

(芦澤武人)

その他

  • 中課題名:多雪重粘土地帯における播種技術及び栽培管理技術の高度化による水田輪作システムの確立
  • 中課題番号:111b2
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:芦澤武人・高橋真実・荒井治喜
  • 発表論文等:Ashizawa et al. (2011) J. Gen. Plant Pathol. 77:10-16.