水稲収量の大気CO2濃度反応における品種・窒素依存性のモデルシミュレーション

要約

大気CO2濃度の上昇による水稲収量の増加率が、品種・窒素施肥条件によって異なる機構と要因についてのモデル解析を行った。品種特性または多窒素施肥により現在大気CO2条件下で籾数が大きい場合に、CO2増による収量の増加率が大きいことが予測される。

  • キーワード:作物モデル、気候変動、高[CO2]、窒素施肥水準、品種間差
  • 担当:作物モデル、気候変動、高[CO2]、窒素施肥水準、品種間差
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・情報利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水稲の大気CO2濃度([CO2])応答には、品種・環境条件により大きな差異があることが明らかにされているが、その差異の生じるプロセス・要因が総合的に理解されるには至っていない。本研究は、高[CO2]に対する水稲の生長・収量反応について、窒素(N)施肥量および品種によって増収率に差異の生じる機構と要因を、水稲モデルを用いて解析的に明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 水稲生育・収量モデルによる予測では、アジアの多様な品種・気象条件(表1)を平均して、高[CO2]による水稲収量の相対増加率( [CO2]700ppm下の粗籾収量/[CO2]360ppm下の粗籾収量)は、全生育期間のN施肥量が多いほど大きくなる。一方、 高[CO2]による地上部乾物重の相対増加率には、大きなN依存性は認められない(図1)。
  • 360、700ppmの両[CO2]条件下で、籾数と一粒重の積であるシンク容量がN施肥量の増加に伴い直線的に増大するのに対し、出穂期に茎葉に蓄積される非構造性炭水化物量と登熟期間の乾物生長量の和であるソース量は、12g m-2以上のN施肥量の増加に対し頭打ち、ないしは減少することが予測される(図2)。
  • 図2の結果から、低N条件下での高[CO2]による収量の相対増加率は、制限となるシンク容量の相対増加率に依存する。一方、高N条件下での収量の相対増加率は、ソース量の相対増加率に依存する。
  • 現在[CO2]下で単位面積当たり籾数が大きい品種ほど、高[CO2]による収量の相対増加率が高い(図3)。
  • 水稲収量の[CO2] 応答の品種・N施肥条件による差異は、現在[CO2]条件下でのシンク・ソースバランスによって決まっており、現在[CO2]下でシンクないしは籾数が大きいほど、収量の相対増加率が大きくなる (図2、3)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、気候変動に適応した品種または育種戦略を策定するための基礎的知見となる。
  • 籾数・炭水化物動態に対する[CO2]およびN施肥量の影響を考慮した水稲モデルシミュレーションは、栽培試験との協働によって、温暖化・高[CO2]下で品種に応じた施肥水準を設定するための解析手法となる。

具体的データ

表1.解析に用いた9品種と7気象・栽培データ取得地点(年)図1.モデルによって予測された [CO2]増による粗籾収量および地上部乾物重の相対増加率.全品種・気象条件のシミュレーション結果を全生育期間のN施肥量毎に平均して示した
図2.モデルによって予測された [CO2]360ppm(上)および700ppm(下)条件下におけるシンク容量およびソース量(出穂期に茎葉に蓄積された非構造性炭水化物量(NSC)と登熟期間の乾物生長量(ΔW)の和)のN施肥反応.全品種・気象条件の結果を平均して示した図3.[CO2]360ppm条件下で推定された各品種の籾数と[CO2]増([CO2]700ppm)による収量の相対増加率の関係.N施肥量に20gm-2を仮定したときのシミュレーション結果を、低温の影響が顕著であった岩手を除く全地点・年次について品種毎に平均して示した.

(吉田ひろえ)

その他

  • 中課題名:気候変動適応型農業を支援する作物モデルの開発
  • 中課題番号:210a1
  • 予算区分:交付金、農林水産省委託気候変動対策プロ
  • 研究期間:2010~2011年度
  • 研究担当者:吉田ひろえ、堀江武、中園江、大野宏之、中川博視
  • 発表論文等:Yoshida H. et al. (2011) Field Crops Res. 124: 433-440.