イネWCSを利用した繁殖牛の冬季屋外飼養

要約

飼料イネ収穫圃場周囲の牧草地において、イネWCSを利用して繁殖牛を冬季屋外飼養できる。給餌に当たっては電気牧柵や給餌柵の利用により残餌量を低減できる。これによりイネWCSおよび堆肥の運搬作業等が軽減できる。

  • キーワード:イネWCS、繁殖牛、電気牧柵、給餌柵、冬季屋外飼養
  • 担当:経営管理システム・開発技術評価
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・農業経営研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

稲発酵粗飼料(イネWCS)は水分重量が重く梱包密度が低いため、運搬や給餌の負担が小さくなく、保管場所の確保も必要である。体重500kgの牛にイネWCSを1日あたり原物12kg(乾物4kg)給餌すると年間4.4tのイネWCSを圃場から運搬し、ほぼ同量の堆肥を牛舎から圃場に運搬し散布しなければならない。そこで、イネWCSを牛舎へ運ばず、収穫圃場周囲の牧草地で給与し、給餌ロスを抑えながら冬季に屋外で繁殖牛を飼養する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 飼料イネ収穫圃場または周囲の牧草地において、イネWCSを飽食状態で給与すると、1日当たり乾物8kg採食する。妊娠後期に冬季屋外飼養した繁殖牛の産子体重や分娩間隔は、春夏秋の放牧牛の場合と同等である(表1)。
    ただし、イネWCSは蛋白成分が少ないため、硝酸塩濃度の高い野菜残渣や有毒植物摂取による中毒症の発生を招きやすい。このため、大豆粕など高蛋白飼料を補給する。
  • イネWCSの屋外給与時には、電気牧柵や給餌柵を用いて、牛の排せつ物による飼料の汚染を抑制することにより残餌を抑制できる。給餌柵は幅20~30mmのステンレスの角材を溶接したものであり、1辺190cm、高さ100cm、重量22kgで、圃場内を1人で転がして容易に移動でき、4年間4台使用して破損や変形等はない(図1)。
  • 無制御でイネWCSを給与すると約20~30%の残餌が発生するが、電気牧柵を用いたイネWCSの給餌制御により残餌を約7%に低減できる。また、給餌柵を利用した場合には残餌を5%以下に低減できる(表2)。
  • 1haから収穫されたイネWCS100個を用いた牧草地での150日間の給与では、イネWCSを牛舎へ運搬して給与する場合に比較して、イネWCSの採食量が2倍に増えるため、1頭あたり物財費は約1万円増加するが、労働時間は約20時間から7時間に省力化を図ることができる(表3)。

成果の活用面・留意点

  • 冬季降雨量の少ない地域で、牧草放牧地と飼料イネ生産圃場が近接し、省力化ニーズの強い肉用牛繁殖経営への導入が期待される。
  • 繁殖成績は茨城県常総市の営農現場での6年間の実証に基づく。
  • 12月~4月の5か月間の放牧に対して、放牧牛1頭あたり約11aの飼料イネ作付面積が必要である。
  • 牧草維持のためイネWCS搬入量は牧草地10a当たり概ね乾物500kg以下とする。

具体的データ

 表1~3,図1

その他

  • 中課題名:新技術の経営的評価と技術開発の方向及び課題の提示
  • 中課題番号:114a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012年度
  • 研究担当者:千田雅之、小西美佐子、亀山健一郎、中村義男、花房泰子、松山裕城、的場和弘
  • 発表論文等:千田(2013)水田放牧の手引き(中央農業総合研究センター):20-23.