トマト台木品種LS-89の青枯病抵抗性関連遺伝子の網羅的探索

要約

トマト台木品種LS-89の茎部では青枯病菌の感染に伴い140以上の抵抗性関連遺伝子が発現する。高発現したグルカナーゼ、リグニン合成等の遺伝子は他の抵抗性品種でも同様に発現する。本解析データは台木品種の青枯病抵抗性評価法の開発等に活用できる。

  • キーワード:トマト、青枯病、台木、網羅的遺伝子発現解析、抵抗性
  • 担当:環境保全型防除・生物的病害防除
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

トマト栽培の連作に伴い土壌伝染性の難防除病害である青枯病の被害が大きな問題となっている。近年、本病防除に有効な接ぎ木栽培を行っても青枯病被害を回避できないことから、より高度な抵抗性を持つ台木品種の育成が要望されている。一方、台木品種の青枯病抵抗性は量的(耐病性)であることから分子レベルでの解明はほとんど行われておらず、遺伝子発現に基づいた効率的な抵抗性評価は困難である。そこで、DNAマイクロアレイを用いて台木品種と感受性品種の茎部での青枯病菌感染に伴う遺伝子発現を網羅的に解析することにより、青枯病抵抗性関連遺伝子を探索する。

成果の内容・特徴

  • 台木品種LS-89と感受性品種ポンデローザの茎に青枯病菌及び対照として水を接種し、1日後の遺伝子発現をトマトDNAマイクロアレイ(約9,200遺伝子)により比較解析すると、ポンデローザでは発現量が変化する遺伝子は見られないが、LS-89では140以上の遺伝子の発現量が有意に2倍以上増加する(図1)。
  • 発現量が変化する遺伝子の中には、エチレン、ジャスモン酸、オーキシンといった植物ホルモンに関連する遺伝子の他、グルカナーゼ等の糖代謝関連遺伝子や、リグニン合成に関与する遺伝子等が含まれる(表1)。
  • LS-89の茎部において青枯病菌が局在する木部や周辺の髄組織でグルカナーゼやリグニンの集積が認められる(図2、データ略)。
  • LS-89で発現量が増加した13遺伝子について抵抗性4品種、感受性4品種での発現をリアルタイムRT-PCRで解析すると、LS-89とポンデローザでの結果と同様に、抵抗性品種では発現量が増加し、感受性品種では変化がみられない(図3)。以上から、本アレイ解析により明らかとなった抵抗性反応に伴い発現量が変化する遺伝子はLS-89に特異的ではなく多くの抵抗性品種で共通する。

成果の活用面・留意点

  • 抵抗性遺伝子の発現量に基づいたトマト台木品種の青枯病抵抗性評価手法の開発等に活用できる。
  • トマトの青枯病抵抗性及び高接ぎ木法の防除機構の解明等の基礎資料として利用できる。

具体的データ

 図1~3,表1

その他

  • 中課題名:生物機能等を活用した病害防除技術の開発とその体系化
  • 中課題番号:152a0
  • 予算区分:実用技術、交付金
  • 研究期間:2009-2012年度
  • 研究担当者:中保一浩、石原岳明、光原一朗(生物研)、高橋英樹(東北大院農)、井上康宏、増中章、宮川久義
  • 発表論文等:1) Ishihara T. et al. (2012) PLoS ONE 7(10):e46763