畑土壌中リン酸の不振とう水抽出法に基づく施設キュウリのリン酸減肥

要約

不振とう水抽出法によって土壌から1.00 mg P2O5 / 100g風乾細土を超える水溶性リン酸が抽出される施設キュウリ栽培圃場においては、基肥無リン酸栽培が可能である。

  • キーワード:施設キュウリ、リン酸減肥、不振とう水抽出法、水溶性リン酸
  • 担当:総合的土壌管理・土壌養分管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・土壌肥料研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

近年の肥料原料価格高騰を背景に土壌診断に基づく施肥管理の重要性が高まっており、農業生産現場において実施可能な土壌中リン酸の簡易評価法の開発が求められていることから、畑土壌中水溶性リン酸を、抽出から分析に至る全過程にわたり安全、簡便、低コストに測定できる方法を開発した(2011年研究成果情報)。ここでは、リン酸施肥量が多い施設栽培作物であり、かつ作付面積が大きく、リン酸消費量が大きい施設キュウリを対象とし、この水溶性リン酸でみた場合のリン酸減肥指標を策定する。

成果の内容・特徴

  • 群馬、神奈川、高知の各県の現地実態調査において、施設キュウリの主要産地では、可給態リン酸(トルオーグ法)が極度に蓄積した圃場が多数認められている(図1左)。
  • 上記3県における基肥無リン酸栽培を中心とする各種リン酸用量試験等の結果では、標準施肥を行った対照区とリン酸減肥区の規格内収量に有意差は認められていない。しかしながら、規格内収量の減肥区/対照区の比のデータ(以下、収量指数)を土壌中の水溶性リン酸(不振とう水抽出法)の水準によって類別化すると、1.00 mgP2O5 / 100g 風乾細土を下回る場合、収量指数が1未満となる例がやや多い(図2)。そこで、これを基肥無リン酸栽培の可否を判別する指標とする。
  • 上記現地実態調査で採取された土壌の水溶性リン酸の分布から、92%の圃場において基肥無リン酸栽培が可能と見込まれる(図1右)。
  • 基肥無リン酸栽培において、施肥リン酸と作物吸収量の収支はほぼゼロまたは収奪となる(図3)が、上記指標を超える土壌において基肥無リン酸栽培を3年程度継続しても水溶性リン酸水準に大幅な低下は認められない(データ省略)。
  • 冬春キュウリのリン酸の施肥基準(全国平均値(平成25年12月調べ))において、総量34.7kg P2O5 / 10aのうち基肥が31.1kgを占めており、これを無施肥とした場合、施肥コストのうち1.6万円 / 10a弱が節減可能と試算される。

普及のための参考情報

  • 普及対象:施設キュウリ栽培農家、関係機関
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国・3,040ha・簡易吸光度計23,000台
  • その他:
    十分に乾燥させ、2mm程度の篩を通した土壌試料を用いる。
    水田跡地に立地し、土壌が灰色低地土または黒ボク土である産地を中心に検討した結果である。
    リン酸用量試験は有機物無施用で実施されたが、現場では堆肥等の有機物施用や養分豊富な育苗培土の持込みが通例であり、これらからのリン酸供給も見込まれる。このため、現場においてもこの指標に基づく減肥による影響は想定されない。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:土壌・資材の評価と肥効改善による効率的養分管理技術の開発
  • 中課題整理番号:151a1
  • 予算区分:委託プロ(気候変動)
  • 研究期間:2009~2013 年度
  • 研究担当者:金澤健二,駒田充生,高橋茂,加藤直人,小柴守(群馬農技セ),鵜生川雅己(群馬 農技セ),高坂真一郎(群馬農技セ),川田宏史(群馬農技セ),染矢和子(群馬農技セ),上山紀代美(神奈川農技セ),竹本稔(神奈川農技セ),岡本保(神奈川農技セ),小勝淑弘(神奈川農技セ),曽我綾香(神奈川農技セ),伊藤喜誠(神奈川農技セ),重久綾子(神奈川農技セ), 速水悠(高知農技セ),森永茂生(高知農技セ),恒石義一(高知農技セ),大崎佳徳(高知農技セ),安岡由紀(高知農技セ)
  • 発表論文等:金澤ら(2014) 安全・簡便な畑土壌中リン酸の現場型評価法に基づく施設 キュウリ栽培でのリン酸減肥マニュアル