コムギ日長反応性遺伝子Ppd-B1及びPpd-D1の生育と収量への影響

要約

日長反応性遺伝子Ppd-B1Ppd-D1の不感光型はコムギを早生化させ、その程度はPpd-B1の方が大きい。出穂が早い系統ほどm2あたり粒数が少なく、両遺伝子とも不感光型の極早生系統は両遺伝子とも感光型の晩生系統より有意に減収する。

  • キーワード:コムギ、日長反応性遺伝子、幼穂分化程度、早晩性、収量
  • 担当:新世代水田輪作・温暖平坦地水田輪作
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター、生産体系研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水稲・麦・大豆の輪作体系における作期競合や、収穫期の雨害を回避するため、我が国のコムギ研究においては早生化を目標とした品種育成が行われている。東北以南のコムギ品種は日長反応性遺伝子Ppd-D1のみ不感光型のものが大半を占め、一部の極早生品種はPpd-B1及びPpd-D1を共に不感光型で持つ(Seki et al. 2011)。日長反応性を介した生育制御には改良の余地があり、日長反応性遺伝子の効果を明らかにしておく必要がある。そこで本研究では、準同質遺伝子系統を用いて、日長反応性遺伝子Ppd-B1及びPpd-D1の組み合わせが圃場における生育の早晩と収量に及ぼす影響を明らかにし、今後の我が国のコムギの早生化育種に資する。

成果の内容・特徴

  • 不感光型のPpd-B1Ppd-D1は圃場において苞分化から頴花分化までの幼穂分化を早め、その効果はPpd-B1の方が大きく、両遺伝子の相加効果はない(図1)。
  • 不感光型のPpd-B1Ppd-D1は、生殖成長の始まりである二重隆起形成期、頂端小穂形成期、茎立期、出穂期および成熟期を早め、その効果はPpd-B1の方が大きい。また、出穂期と成熟期の早期化に関してはPpd-B1Ppd-D1の相加効果があり、両遺伝子とも不感光型の系統は両遺伝子とも感光型の系統より出穂期が14日,成熟期が6日早くなる(表1)。
  • 不感光型のPpd-B1Ppd-D1は稈長を短縮させ、両遺伝子の間で効果の差はなく、相加効果はある(表2)。
  • 出穂期が早い系統ほど1穂小穂数、1穂粒数、m2あたり粒数及び子実重が少なく、両遺伝子とも不感光型の極早生系統は両遺伝子とも感光型の晩生系統より14%から47%減収する(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 日長反応性遺伝子を利用した品種育成に資する基礎的なデータとして活用する。
  • 本試験で用いた準同質遺伝子系統は春化非反応型のVrn-A1型アブクマワセを背景としており、一般的な栽培品種を背景としていない。
  • 本試験は、暖地温暖地(茨城県つくば市及び福岡県筑後市)における栽培試験である。

具体的データ

図1,表1~2

その他

  • 中課題名:地下水位制御システムを活用した温暖平坦地向け水田輪作システムの確立
  • 中課題整理番号:111b3
  • 予算区分:委託プロ(気候変動)
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:松山宏美、藤田雅也(作物研)、関昌子、小島久代(作物研)、島崎由美、松中仁(九沖研)、蝶野真喜子(作物研)、八田浩一(北農研)、久保堅司(東北研)、高山敏之(作物研)、乙部千雅子(作物研)、小田俊介(作物研)、渡邊好昭、加藤鎌司(岡山大)
  • 発表論文等:Matsuyama H. et al.(2015) Plant Prod. Sci. 18(1):57-68