多段接ぎ木法を用いたナス科果菜類の複合土壌病害の防除

要約

多段接ぎ木法は、台木にナス半身萎凋病、トマト褐色根腐病強度抵抗性及び中度の青枯病抵抗性を持つ品種、中間台木に青枯病強度抵抗性品種を接いだ苗を利用した複合土壌病害防除技術である。慣行接ぎ木と生育及び収量は同等であり、栽培上の問題はない。

  • キーワード:ナス、トマト、多段接ぎ木、青枯病、半身萎凋病、褐色根腐病
  • 担当:環境保全型防除・生物的病害防除
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・病害虫研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

ナス、トマト栽培の産地化、施設化に伴う連作により、ナスでは青枯病と半身萎凋病が、トマトでは青枯病と褐色根腐病が大きな問題となっている。両病害の防除法として抵抗性台木品種を用いた接ぎ木栽培が広く普及している。しかしながら、強度の複合抵抗性を有する台木品種が育成されておらず、両病害に対する有効な防除技術の開発が切望されている。そこで、異なる抵抗性を持つ台木品種を「台木」及び「中間台木」として組み合わせた"多段接ぎ木法"を利用した革新的な複合土壌病害防除技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 多段接ぎ木法は、(1)ナスの場合、台木に強度の半身萎凋病抵抗性及び中度の青枯病抵抗性を持つ「トナシム」、中間台木に強度の青枯病抵抗性品種「台太郎」を接いだ苗を、(2)トマトの場合、台木に強度の褐色根腐病抵抗性及び中度の青枯病抵抗性品種「ブロック」等、中間台木に強度の青枯病抵抗性品種「Bバリア」等を接いだ苗を利用した防除技術である(図1)。中間台木の長さは、ナス「台太郎」で4-5cm、トマト「Bバリア」等で5-6cmである。
  • 多段接ぎ木栽培を行うことで、台木でナス半身萎凋病菌及びトマト褐色根腐病の感染・移行を、台木と中間台木で青枯病菌の移行・増殖を抑制し、両病原菌による穂木の感染、発病を抑制する(図2)。
  • 多段接ぎ木ナスは、夏秋及び半促成作型で台木「トナシム」の慣行接ぎ木よりも高い青枯病防除効果が認められる。また、半身萎凋病発病抑制効果は慣行接ぎ木と同等である(図3)。収量や品質等の栽培管理上の問題点はない。
  • 多段接ぎ木トマトは、高冷地の夏秋及び半促成作型で慣行接ぎ木よりも高い青枯病防除効果が認められる。また、根部の褐色根腐病の発病抑制効果は慣行接ぎ木と同等である(図4)。収量や品質等の栽培管理上の問題点はない。

普及のための参考情報

  • 普及対象:ナス及びトマト生産者、苗生産企業、公立研究機関及び普及センター
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国、1,000ha、複合土壌病害発生圃場の2割を目指す。
  • 多段接ぎ木苗は購入できる(ベルグアース(株))
  • 群馬県のナス夏秋作型(収穫6-10月)、10a当たり700株、多段接ぎ木苗の価格は慣行の1.5倍、発病株は慣行で37%、多段接ぎ木で7%が発生した場合、苗価格の増加分を考慮しても10a当たり約33万円の増益になった。
  • 重度な青枯病の発生圃場では防除効果が劣る場合もある。接ぎ木苗の浅植え、管理用ハサミ等の消毒及び圃場の排水対策を徹底する。多段接ぎ木ナスでは、(1)ブロッコリー輪作との併用により半身萎凋病の発病リスクを低減できる。(2)台木は、半身萎凋病抵抗性品種「トルバム・ビガー」、「トレロ」も利用できる。(3)青枯病単独発生圃場では高接ぎ木ナスを利用する。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:生物機能等を活用した病害防除技術の開発とその体系化
  • 中課題整理番号:152a0
  • 予算区分:競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2013~2015年度
  • 研究担当者:中保一浩、前田征之(新潟農総研)、熊崎晃(岐阜中山間農研)、濱登尚徳(新潟農総研)、佐藤秀明(新潟農総研)、池田健太郎(群馬農技セ)、古澤安紀子(群馬農技セ)、鍛治原寛(山口農林総セ)、瓦朋子(ベルグアース(株))、井上康宏、植原健人
  • 発表論文等:
    1)熊崎晃ら(2016)岐阜中山間農業研究所研報、11:9-16
    2)農研機構(2016)「革新的接ぎ木導入マニュアル」 (2016年度公開予定)