窒素過剰施用に伴う茎葉型WCS用イネの窒素含有率の上昇と発酵品質の低下

要約

茎葉型WCS用イネ「リーフスター」を極多肥栽培しても、イネの硝酸態窒素含有率は急性硝酸塩中毒の基準値には達しないが、窒素肥料や牛ふん堆肥を多量施用すると、イネの窒素含有率が上昇し、調製サイレージ中のVBN含有率が高まり、発酵品質が低下する。

  • キーワード:稲発酵粗飼料、各種窒素含有率、牛ふん堆肥、窒素施肥、揮発性塩基態窒素
  • 担当:自給飼料生産・利用・耕畜連携飼料生産
  • 代表連絡先:電話029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・土壌肥料研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

茎葉型の稲発酵粗飼料(WCS)用イネ「リーフスター」を多収とするために、牛ふん堆肥(以下堆肥)と窒素肥料を用いて多肥栽培すると、乳酸菌無添加で調製したサイレージの発酵品質が低下する(2009年度研究成果情報「飼料イネ「リーフスター」の乾物生産と品質に対する牛糞堆肥と窒素施肥の影響」)。また、堆肥を多量施用した粗飼料生産では、飼料中の硝酸態窒素含有率の上昇が問題化している。そこで、堆肥や窒素肥料の施用法による茎葉型のイネの各種窒素含有率の違いがサイレージ調製時の揮発性塩基態窒素(VBN)の生成や生育時期別の硝酸態窒素含有率に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • イネの硝酸態窒素含有率は窒素肥料施用量に応じて上昇するが、硝酸態窒素含有率が比較的高いと想定される、早い生育時期および黄熟期の極多肥条件(堆肥6t/10aと窒素肥料24kg-N/10a)においても、反すう家畜に対する急性硝酸塩中毒の硝酸態窒素含有率の基準値2000ppmより著しく低い(図1)。
  • イネの全窒素、タンパク態窒素および非タンパク態窒素含有率は堆肥と窒素肥料の施用量に応じて上昇し(図2)、窒素施用量を増やしても乾物重の増加が鈍化する窒素肥料施用量12kg-N/10a以上では、イネの全窒素に対する非タンパク態窒素の割合が高まる。
  • イネをサイレージ調製した際の発酵品質の基準となるサイレージ中の全窒素に対する揮発性塩基態窒素の割合(VBN/TN)は、乳酸菌無添加の場合、窒素肥料の施用量が多いと不良には達しないものの高い値となる(図3)。
  • サイレージの材料となるイネの非タンパク態窒素およびタンパク態窒素含有率が高いと、サイレージ調製後のVBN含有率も高く、堆肥や窒素肥料施用によるイネの窒素含有率の上昇はサイレージ調製中のVBN生成量を増加させる。VBN含有率はタンパク態窒素よりも非タンパク態窒素との関係が強い(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 中央農研谷和原水田圃場(細粒灰色低地土)において2006年5月に「リーフスター」を移植栽培した結果であり、茎葉型WCS用イネに対する施肥法の参考となる。
  • 牛ふん堆肥散布後の0t、2tおよび6t区の栽培前土壌の可給態窒素量はそれぞれ80、87および105mg-N/kgであり、リン酸およびカリ肥料は無施用とし窒素単肥で栽培した。散布した堆肥の成分は水分56%、乾物あたり全窒素2.5%、C/N比13、カリウム1.7%およびリン0.64%で剪定枝チップと籾殻を含む。

具体的データ

その他

  • 中課題名:耕畜連携による水田の周年飼料生産利用体系の開発
  • 中課題整理番号:120c3
  • 予算区分:交付金、委託プロ(えさ)
  • 研究期間:2006~2015年度
  • 研究担当者:草佳那子、石川哲也、守谷直子
  • 発表論文等:
    1)草ら(2016)土肥誌、87(1):1-8
    2)守谷ら(2015)日草誌、61(2):67-73