有機栽培転換期と慣行の土壌及び堆肥施用の有無の土壌酵素活性による判別

要約

レタス・ニンジンの有機栽培開始3年目に、6種類の土壌酵素活性を変数に有機/慣行と堆肥/無堆肥の判別関数を求め、同一圃場の異なる転換後年次に適用すると、1年目では、有機と慣行、堆肥と無堆肥を判別できないが、2年目以降には判別が可能となる。

  • キーワード:有機栽培転換期、土壌酵素、レタス、ニンジン、牛ふん堆肥
  • 担当:総合的土壌管理・土壌生物機能評価
  • 代表連絡先:電話029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・土壌肥料研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

有機栽培への転換期にみられる作物収量の変動には、様々な要因が関与していると考えられ、その一因として、施用有機物からの養分の有効化などに影響を及ぼす土壌微生物活性の変化が挙げられている。本試験では、野菜畑における転換3年目までの生物性の推移を、土壌酵素活性の特徴で捉えられるか検討する。

成果の内容・特徴

  • レタス-ニンジンの年2作体系に有機区と慣行区を設け、それぞれに牛ふん堆肥施用区と無施用区を置く。1~3作目のレタス、ニンジンの収量を調べると、各1作目(転換1年目)のみ、慣行区よりも有機区で有意に収量が低い(図1)。
  • 1~3作目レタスの収穫約2ヶ月後に、土壌のデヒドロゲナーゼ、β-グルコシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ活性を測定し、転換3年目(2011年)に、これらの土壌酵素活性を用いて、有機/慣行と堆肥/無堆肥を判別する関数1,2を得る。
  • 判別関数1は、2011年の土壌において、有機区と慣行区を判別する関数(判別得点1がプラスで有機区と判別)で、デヒドロゲナーゼ活性の寄与が大きい。判別関数2は、堆肥施用の有無を判別する関数(判別得点2がプラスで堆肥施用と判別)で、セルラーゼ活性の寄与が大きい(図2c、構造行列(c))。
  • この判別関数1,2に、転換1年目(図2a、2009年)、2年目(図2b)、3年目(図2c)の土壌酵素活性の値を入れると、転換1年目の土壌では、有機/慣行、堆肥/無堆肥とも判別できないのに対し、転換2年目の土壌は、転換3年目と同じように、有機/慣行と堆肥/無堆肥を判別することができる。
  • 有機区で収量が劣る転換1年目には、土壌酵素活性が3年目と異なる性質を示す一方、収量が同等となる2年目以降、同じ判別関数で有機/慣行等を判別できるようになる。このため、転換後の収量の変化と土壌酵素活性の変化には関連がある可能性がある。

成果の活用面・留意点

  • 有機栽培を始めた同一圃場で3年間、土壌酵素活性を追跡して得られた結果である。
  • 有機区では、2009年のレタスに市販の有機質肥料、2010年、2011年のレタスには発酵鶏ふんを施用し、各年のニンジンには魚かすを施用した結果である。慣行区では、レタス、ニンジンとも硫安・苦土重焼リン・硫加を施用し、レタスには慣行の殺虫剤・殺菌剤を、ニンジンには慣行の除草剤・殺虫剤・殺菌剤を散布している。
  • 堆肥区では、2009年はレタスとニンジン前に各2.0 t/10aの牛ふん堆肥を施用し、2010年と2011年には、レタス前にのみ1.7 t/10aの牛ふん堆肥を施用した結果である。
  • 試験は、緑肥ソルガムを均一栽培してすき込んだ淡色黒ボク土圃場で行い、レタス、ニンジンとも、収穫残さを外に持ち出して管理している。

具体的データ

その他

  • 中課題名:土壌生物機能を核とした土壌生産力評価法の開発
  • 中課題整理番号:151c0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2015年度
  • 研究担当者:唐澤敏彦、建部雅子、佐藤文生、駒田充生、長岡一成、竹中眞、浦嶋泰文、西村誠一、高橋茂、加藤直人
  • 発表論文等:Karasawa T. et al. (2015) Soil Sci. Plant Nutr. 61:295-311