水稲白未熟粒率に関連する稲体栄養条件の予測モデル

要約

「コシヒカリ」の作期・窒素施肥法による生長・収量の変動を説明する水稲生育予測モデルによって推定された一籾あたり利用可能炭水化物量と同窒素量は、実測の乳白粒率および背基白粒率と強い負の相関関係にあり、白未熟粒率予測の有効な指標となる。

  • キーワード:作物モデル、水稲外観品質、窒素施肥法、高温登熟障害、気候変動
  • 担当:気候変動対応・気象-作物モデル開発
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・情報利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

頻発する水稲の高温登熟障害による被害を軽減するため、施肥基準や作期の策定をサポートする技術の開発が期待されている。このツールとして、登熟期間の気温条件を用いた白未熟粒率予測モデルがいくつか開発されているが、栽培条件による変動も考慮し、稲体の栄養条件が白未熟粒率に与える影響を予測するモデルは開発されていない。そこで気象・窒素施肥法が水稲の生育・収量に与える影響を説明・予測する水稲生育モデルを開発し、同モデルによる外観品質予測に向けて、白未熟粒率に関連し、かつモデルで予測可能な稲体栄養条件の指標を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 開発した水稲生育予測モデルは、滋賀県・2010年における「コシヒカリ」の作期・窒素施肥試験(2土壌(埴壌土、砂壌土)、3作期(5月3日、5月17日、5月27日移植)、窒素施肥量計3-9g N m-2、全80データセット)の生育・収量の変動を、妥当な精度で説明する(表1)。
  • 一籾あたりの利用可能炭水化物量を、登熟初期までの茎葉の非構造性炭水化物蓄積量と登熟期間中の物質生長量の和を籾数で除したものと定義すると、水稲生育予測モデルによるこの推定値は、実測された乳白粒率と密接な負の相関関係にある(図1、表2)。
  • 一籾あたりの利用可能窒素量を、登熟初期までに茎葉に蓄積された籾へ転流可能な窒素量と登熟期間中の窒素吸収量の和を籾数で除したものと定義すると、水稲生育予測モデルによるこの推定値は、乳白粒率と背白粒、基白粒率の合計である白未熟粒率と密接な負の相関関係にある(図2、表2)。
  • 水稲生育予測モデルによる一籾あたり利用可能炭水化物量および同窒素量の推定値は、実測の単位面積あたり籾数および玄米タンパク濃度よりも白未熟粒率との相関が強く、これらがそれぞれ、乳白粒率、背基白粒率の指標となる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 登熟期の気温条件が白未熟粒率に与える直接的影響をさらに考慮すると、水稲生育・収量予測モデルで推定される一籾あたり利用可能炭水化物量および同窒素量は、気象・栽培条件による白未熟粒率の変異の予測に活用できる。
  • 本成果で得られた水稲の生育・収量予測モデルは、メッシュ農業気象データシステム等と統合することにより、各地の気象・栽培条件に応じた水稲栽培管理支援に活用することができる。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:気候変動適応型農業を支援する作物モデルの開発
  • 中課題整理番号:210a1
  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2010~2015年度
  • 研究担当者:吉田ひろえ、中川博視、大野宏之、佐々木華織、武久邦彦(滋賀県)、小嶋俊彦(滋賀県)
  • 発表論文等:Yoshida et al. (2016) PPS; DOI: 10.1080/1343943X.2015.1128111