通電による卵白熱加工

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要約

相変化を伴う蛋白溶液素材の熱加工は、通電加熱により非常に迅速・均一に行うことが可能である。ゲル品質に差異は認められず、自由な形態・サイズのゲル形成が非常に容易に行える。

  • 担当:食品総合研究所・食品工学部・製造工学研究室
  • 代表連絡先:0298-38-8029
  • 部会名:食品
  • 専門:加工利用
  • 対象:家禽類
  • 分類:指導

背景

食品加工の中で加熱は最も大きな位置を占めるが、種々の問題(温度制限、熱特性、熱容量等)を抱えながら伝導、伝達、輻射の外部加熱が主流となっている。たとえば、蛋白溶液からの加熱ゲル形成では熱伝達面でのゲル形成により熱移動を速やかに行うことが難しく、外表部は過度の熱履歴で品質劣化を招きやすい。一方で、これら問題から比較的フリーである内部加熱の研究は遅れている。そこで、原理的かつ実用的に高い可能性を持つジュール熱による「通電加熱」普及のため、相変化を伴う蛋白溶液(卵白)の発熱機構解明を中心に基礎研究を行った。

成果の内容・特徴

  • 通常の液卵加工を想定して、10%卵白アルブミン溶液を対象に各種周波数(50Hz~10kHz)の固定電圧で通電加熱(図1)を行い、昇温速度と周波数の関係、液相からゲル相への相変化に伴う昇温変化を検討した。使用周波数に関係なく非常に迅速で一定の昇温が得られた(図2)。(1)75°C以下では液相を保ち、その昇温速度は周波数が高いほどやや高くなる傾向が認められ、(2)75°C付近でゲル相に変わり、この温度以上では使用周波数に関係なく、ほぼ一定のより高い昇温速度を示した。
  • 溶液、ゲルおよびゲル破壊遠心分離後の上澄液の三者について、80°C以下の各温度で10Hz~100kHzの範囲でインピーダンス(図3にゲルの例を提示)を測定し、さらに50、100Hzでの誘電損失角tanδの値から、(1)は低周波数での系の分極による大きなインピーダンスが原因に、(2)は断熱系では無いため液相内の対流により温度変化が抑制され、75°Cでのゲル形成により熱移動が対流から伝導に変化して昇温速度が大きく増加したものと考えられる。
  • 各周波数でのゲルは通常の湯浴加熱ゲルと比較してゲル強度に差異は無く(図4)、相変化を伴う蛋白凝固系でも通電加熱は非常に迅速な加熱技術であることが確認された。

成果の活用面・留意点

従来から均一迅速加熱が困難とされる蛋白ゲル形成系において、非常に迅速でかつ均一な加熱法を提示し得た。卵白のみならず、大豆蛋白、魚肉蛋白等の各種蛋白素材に応用が可能と考えられる。また、短時間加熱殺菌への応用も可能である。

具体的データ

 図1 通電加熱装置の概要
図2 各周波数通電加熱時の卵白アルプミン溶液の温度変化
図3 10Khz、10V/cmの通電加熱による各温度での卵白アルプミンゲルのインピーダンス
図4 卵白アルプミンゲルの破壊強度

その他

  • 研究課題名:通電による素材への電界・熱的効果
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成7年度(平成7年~9年)
  • 研究担当者:野口明徳、植村邦彦、五十部誠一郎
  • 発表論文等:通電加熱:周波数変化と熱的考察 日本食品工業学会第40回発表(1993.3.)
                      通電加熱:味噌の殺菌 日本食品工業学会第40回発表(1993.3.)p.144
                      交流通電による植物組織の発熱機構 日本食品工業学会第41回大会(1994.3.)p.104
                      通電加熱による冷凍生地の解凍 日本食品工業学全第42回大会(1995.3.)
                      通電加熱における温度分布の解析 日本食品工業学会第42回大会(1995.3.)
                      Ohmic Heating of Japanese White Radish.Int. J. Food Sci. Techno1. in press.
                      魚肉ゲルの通電加熱における周波数帯の影響 日本食品科学工学会誌
                      通電加熱による味暗の殺菌 日本栄養・食糧学会
                      通電加熱中の卵白アルブミン溶液の加熱速度とその変化 日本食品科学工学会誌(印刷中)