キノコのレンネットの構造と機能の解析

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要約

キノコのレンネットがストリングチーズ製造に最も適しているのは苦味を生成しないことと、S-S結合がなく熱に対して不安定である為にチーズ製品のストリング性が失われにくい点にある事を明らかにし、更に本酵素の結晶化を行い、X線結晶解析により構造を解明した。

  • 担当:食品総合研究所・生物機能開発部・分子情報解析研究室
  • 代表連絡先:0298-38-8063
  • 部会名:
  • 専門:バイテク
  • 対象:
  • 分類:

背景

チーズ製造には子牛の第4胃から採られる子牛レンネットが使われている。カビのレンネットも工業的に使われているが、あくまでも子牛レンネットの代替品としてであり、子牛レンネットよりも優れているという報告はない。ウスバタケ(Irpex lacteus)のレンネットはアスパラギン酸プロテアーゼの一種であり、本酵素を用いストリングチースを製造したところ子牛レンネットよりも優れた酵素であることが示された。その理由を明らかにするために、本酵素の性質(機能)と構造の関係を検討した。また、構造と機能の解析のためには高次構造を知る必要がある。そこで本酵素の結晶化も行い、構造解析を試みた。

成果の内容・特徴

  • 牛乳中の主要なタンパク質でありかつ苦味の生成源であるβ-カゼインに対しウスバタケレンネットを作用させた結果、子牛キモシンと同様に苦味ペプチドが遊離しない作用特性を示し(図1)、それがチーズに苦味を生じない理由であることが明らかになった。
  • 本酵素の中性pHでの熱安定性を他のレンネットと比較したところ最も不安定であることを認めた(図2)。この不安定性はチーズ製品のストリング性を長続きさせる上で非常に重要であると考えられる。
  • 一次構造を決定した結果、ウスバタケレンネットはその分子内にS-S結合を持たない唯一のアスパラギン酸プロテアーゼであり、S-S結合を持たないことが本酵素の不安定性と係わっていることが示唆された。
  • 本酵素の結晶化を行い図3に示すような1×0.5×0.2mmの大きさの単結晶が得られ、8°CでX線回折データを収集した。本結晶はP21の空間群をもち、格子定数はa=54.5Å、b=79.6Å、c=37.5Å、α,γ=90°、β=96.8°であり、結晶中の溶媒含量は47%(v/v)であった。

成果の活用面・留意点

立体構造解明のためには2種類の重原子同型置換体が必要であるが、すでにHgの同型置換体が得られており、現在別な重原子同型置換体を調製中である。ウスバタケでは本酵素の生産性が悪いので、今後発現系の検討が必要である。

具体的データ

 図1
図2
図3

その他

  • 研究課題名:担子菌レンネットの構造と機能の解析
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成7年度(平成3年~7年)
  • 研究担当者:小林秀行
  • 発表論文等:H. Kobayashi et al. Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of aspartic proteinase from Irpex lacteus. J. Mol. Biol., 226, 1291-1293 (1992).
                      小林秀行、キノコの凝乳酵素の3次元構造、フードケミカル、1月号、126-130(1992)
                      H. Kobayashi et al. Screening for milk-clotting enzyme from basidyomycetes. Biosci. Biotech. Biochem. 58, 440-441 (1994).