遺伝子操作による新規デキストラン合成酵素の作出

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要約

デキストラン工業生産株Leuconostoc mesenteroidesにデキストランスクラーゼ様蛋白をコードする新規遺伝子を発見した。本遺伝子産物は正常な酵素の2/3の分子量しかないが、遺伝子を修復し、新しい活性型デキストランスクラーゼを作出した。

  • 担当:食品総合研究所・食品理化学部・炭水化物研究室
  • 代表連絡先:0298-38-8132
  • 部会名:食品
  • 専門:バイテク
  • 対象:微生物
  • 分類:研究

背景

Leuconostoc mesenteroides NRRL B-512F株のデキストランスクラーゼ(DS)は、スクロースを分解し、水溶性のグルコースポリマーであるデキストランを合成する酵素である。B-512F株はこれまでただ一種類のDSしか持たないとされていたが、今回、DSの活性中心部位のみを持った新規DS様蛋白をコードするdsrT遺伝子を発見した。この遺伝子産物の性質を調べ、さらに遺伝子操作でデキストラン合成活性の回復を図った。

成果の内容・特徴

  • 新規DS様蛋白をコードするdsrTおよび既知のDSをコードするdsrS遺伝子をそれぞれ大腸菌中で発現した。DSRTは約150kDaと、DSRS(約200kDa)よりも小さい蛋白であることがわかった(図1)。
  • 大腸菌中で生産したDSRSおよびDSRTをそれぞれ約200倍に精製した。精製した酵素の活性を測定した結果、DSRTは弱いスクロース分解活性があり、またDSRSの活性を反応終期においてやや阻害した(図2)。
  • dsrT遺伝子は、DSの活性中心部位をコードする領域の下流に5塩基の欠損があった。この塩基の欠損を補充し、修復した遺伝子dsrT5を大腸菌中で発現した。PAS染色では、DSRTにはデキストラン合成活性は認められず、修復されたDSRT5は分子量が約210kDaと大きくなり、デキストランの合成活性が認められた(図3)。
  • DSRSとDSRT5を用いて実際にデキストランを合成した。DSRSは水溶性の高いデキストランを作り、DSRT5が生産したデキストランは、白色の沈殿を形成した。DSRT5はDSRSよりも水溶性の低いデキストランを生産すると考えられる(図4)。

成果の活用面・留意点

L. mesenteroidesが一度失った酵素を遺伝子操作で蘇らせることにより、新しい構造のデキストランを生産することが可能になった。現在新規デキストランの構造解析を進めているところである。

具体的データ

図1 dsrSおよびdsrT遺伝子の大腸菌中での発現
図2 DSESおよびDSRTのスクロース分解活性
図3 プラスミドpDSRS、pDSRTまたはpDSRT5を持つ大腸菌無細胞抽出液のSDS-PAGEとデキストラン合成
図4 DSRSまたはDSRT5によるデキストランの合成

その他

  • 研究課題名:水溶性グルコースポリマー・関連糖質の酵素による生産と修飾
  • 予算区分:バイテク(糖質工学)
  • 研究期間:舟根和美・北村義明・小林幹彦(秋田県総合食品研究所)
  • 研究担当者:平成10年度(平成9~12年)
  • 発表論文等:1)Leuconostoc mesenteroides NRRL B-512Fのデキストランスクラーゼのグルカン結合部位の検索、日本農芸化学会1997年度大会、講演要旨集、p.151 (1997).
                      2)デキストランの生合成ー化学修飾法を用いたデキストラン合成酵素の触媒部位の検索ー、食糧、36, 105-125 (1997).
                      3)Glucan Binding Regions of Dextransucrase from Leuconostoc mesenteroides NRRL B-512F, Biosci.Biotech. Biochem. , 62 (1) 123-127 (1998).
                      4)Leuconostoc mesenteroides NRRL B-512Fのデキストランスクラーゼ遺伝子の検索、日本農芸化学会1998年度大会、講演要旨集、p.324 (1998).
                      5)Leuconostoc mesenteroides NRRL B-512Fのデキストランスクラーゼ様蛋白について、日本応用糖質科学会平成10年度大会、応用糖質化学、45 (3), 321 (1998).