DNAと合成脂質分子から形成される繊維構造

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要約

DNAと合成脂質分子を水中で混ぜるだけで、ナノメートルスケールのらせん状繊維構造が得られた。原子間力顕微鏡による観察の結果、DNAの鎖長によってらせんのピッチが異なる繊維が形成されることを見いだした。

  • キーワード:DNA、脂質、ナノファイバー、自己集合
  • 担当:食総研・食品分析研究領域・成分解析ユニット
  • 連絡先:電話029-838-7089
  • 区分:食品試験研究
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

ナノテクノロジーでは、生体分子の優れた性質を手本とすることが一つの戦略となっている。例えば、DNAはあらゆる生物に共通し た遺伝情報を担う物質であり、その重要な機能や構造は、四種類の核酸塩基が決まった相手とペアを作る(アデニン-チミン、グアニン-シトシン)性質によ る。また、脂質は細胞膜を形成する物質で、液体中で自然に脂質分子同士が集合するという性質をもつ。DNAと脂質の性質を組み合わせた合成脂質分子を用い て従来に無いナノスケールの構造を造り出し、その機能を探索することを目的とし、今回はDNAと合成脂質分子から形成されたナノ構造体の解析を行った。

成果の内容・特徴

  • 長鎖オリゴメチレン鎖の両末端にチミジル酸を連結した化合物1を合成した(図1)。この化合物1と、アデニンのみが10個繋がったオリゴDNA2(図1)を水溶液中で混合し12の濃度をそれぞれ1.8 x 10-2 mol / L、1.8 x 10-3 mol / Lとした。この水溶液を加熱して溶解した後、そのまま室温で放置した(このサンプルを1+2と表す)。これを少量(< 1 μL)取り、高配向熱分解黒鉛(HOPG)基板上に載せ、原子間力顕微鏡(AFM)により観察した。その結果、1+2は高さ6.4 nm、長さ数100 nmの繊維構造(ナノファイバー)を形成していることがわかった(図2)。
  • このナノファイバーの縦断面の表面形状を測定した結果、表面に周期的な凹凸構造が観察され、その周期は11 nmであった(図3 a, b)。CDスペクトル測定の結果から、このファイバーは右巻きのらせん構造を形成していることが示唆され、AFMで得られた凹凸構造は、右巻きらせんのピッチに相当しているものと推察された。同様に、アデニンをそれぞれ20、30、40個もつオリゴDNA345(図1)についても、化合物1と水溶液中で混合・加熱することによりナノファイバー構造を形成することがわかり、1+5の場合ではらせん構造を明確に観察することができた(図3 g)。また、断面形状を測定すると、1+2の場合と同様に周期的な凹凸構造が観察でき、興味深いことに、そのピッチは1+3で18 nm、1+4で24 nm、1+5で40 nmとなり、1に加えるオリゴDNAの長に応じて変化することがわかった(図3c~h)。これらのナノファイバーは、オリゴDNA中のアデニンと化合物1中のチミンがペアをつくりながら分子同士が集合し、形成されたものと推察している。

成果の活用面・留意点

  • 顕微鏡でDNAの違い(鎖長、塩基配列など)を画像化する技術は、まだほとんど開発されていない。本結果は、DNAの鎖長の違いをらせん構造体のピッチの違いとして画像化できることから、DNAを顕微鏡で分析するための新たな方法として期待される。
  • 今後は、さまざまな鎖長や塩基配列をもつDNAを用い、その時に得られるナノ構造体との関係を詳しく解析し、顕微鏡技術によるDNA分析への応用をはかる。

具体的データ

図1 合成脂質分子1とオリゴアデニル酸2-5の分子構造。

 

図2 1+2から形成したナノファイバーのAFM像。

 

図3 合成脂質分子1と鎖長の異なるオリゴアデニル酸から得られたナノファイバーのAFM像(上段)と断面プロファイル(下段)。a, b);1+2、c, d);1+3、e, f);1+4、g, f);1+5。

 

その他

  • 研究課題名:ナノファイバー構造を利用した新規分析技術の開発
  • 課題ID:313-f
  • 予算区分:さきがけ・食品ナノ・科研費
  • 研究期間:2007~2010年度
  • 研究担当者:岩浦里愛、吉川佳広(産総研)、亀山眞由美、清水敏美(産総研)
  • 発表論文等:Iwaura R et al. (2007) Org. Biomol. Chem. 5:3450-3455