DNAマイクロアレーによるゴマリグナンの脂質代謝調節作用の解析

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要約

ゴマリグナンは、脂肪酸酸化系酵素のみならず脂肪酸、カルニチン輸送体等様々な遺伝子の発現変化を介し脂肪酸分解を促進する。また、その生理活性はリグナン種により異なる。

  • キーワード:DNAマイクロアレー、ゴマ、ゴマリグナン、脂肪酸酸化、遺伝子発現
  • 担当:食総研・食品機能研究領域・栄養機能ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8083
  • 区分:食品試験研究
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

ゴマリグナンは肝臓の脂肪酸酸化を活性化し、反対に脂肪酸合成を抑制し、血清脂質濃度を低下させる。しかし、これ以外の代謝系に与える影響に関する知見は乏しい。そのため、最新の評価技術であるDNAマイクロアレー解析により種々のリグナン(セサミン、エピセサミンおよびセサモリン)投与によるラット肝臓の遺伝子発現プロファイルの変化を調べ、リグナンが代謝系全体に与える影響を明らかにし、さらに各リグナンの生理作用の違いを明確にする。また、ゴマそのものの摂取が遺伝子発現に与える影響を精査する。

成果の内容・特徴

  • 飼料に添加したセサミンは128個の遺伝子、エピセサミンとセサモリンはそれぞれ526個と516個の遺伝子の発現を有意に(p<0.05)、1.5倍以上変化させる。
  • 種々のリグナンにより共通に発現誘導あるいは抑制を受ける遺伝子が多く(図1に1.5倍以上発現誘導される遺伝子について示す)、遺伝子発現プロファイルに与える影響は互いに類似している。
  • リグナンは数多くの脂肪酸酸化系酵素の遺伝子発現を増加させ、脂肪酸酸化系酵素以外の脂肪酸代謝制御に関与する酵素ならびに輸送体などの遺伝子の発現を変化させる(表1、図2)。
  • 遺伝子発現プロファイルの解析結果は、リグナンが図2に示すように脂肪酸代謝に関連する様々な遺伝子の発現変化を介し、脂肪酸の分解を促進していることを示す。
  • 遺伝子の発現変化率はエピセサミンとセサモリンでセサミンよりも大きい(表1)。セサミンの肝臓での蓄積量はエピセサミンおよびセサモリンより少なく(図3(A))、生理作用の違いは体内蓄積量の違いに基づくと思われる。
  • ゴマ丸ごと摂取はリグナンで認められると同様な遺伝子発現変化を引き起こす。ゴマ投与ラットでのセサミンとセサモリンの体内蓄積量は精製リグナンを投与した場合より極めて少なく(図3(B))、他のリグナン種あるいはリグナン以外の成分がゴマの生理作用に関与する可能性がある。

成果の活用面・留意点

  • ゴマリグナンおよびゴマそのものが肝臓の代謝系に与える影響の全体像が明確となり、ゴマの健康増進機能とその発現機構について科学的根拠を与えた。この知見は、ゴマを用いた機能性食品開発に寄与するものである。
  • ゴマにはセサミンとセサモリン以外の生理活性物質が含まれることが示唆される。この点については更なる検討が必要である。

具体的データ

図1.種々のゴマリグナンを摂取したラット肝臓で1.5倍以上発現が有意に(p<0.05)増加した遺伝子数のヴェン図による記載

表1. ゴマリグナンが脂肪酸代謝に関連する輸送体遺伝子発現に与える影響 DNAマイクロアレ-による解析

図2.ゴマリグナンがラット肝臓の脂肪酸代謝関連遺伝子の発現に与える影響

図3.各種リグナン(A)あるいはゴマ(B)を与えたラット肝臓のリグナン濃度

その他

  • 研究課題名:食品中の脂質代謝調節因子が代謝ネットワークに与える影響のニュートリゲノミクスによる解明
  • 課題ID:312-e
  • 予算区分:委託:食品・農産物の信頼性確保と機能性解析のための基盤技術の開発
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:井手隆
  • 発表論文等:Arachchige P.G. et al. (2006) Metabolism 55(3):381-390.
                       Lim J.S. et al. (2007) Br. J. Nutr. 97(1):85-95.
                       Huong D.T., Ide T. (2008) Br. J. Nutr. 100(1):79-87.
                       Ide T. et al. (2009) J. Nutr. Sci. Vitaminol. 55 (1): 31-43.