多様なエタノール変換プロセスに対応可能な糖化酵素生産システムの構築

要約

複数の可溶性糖質の混合比や供給量を制御しつつ連続添加培養を行い、リグノセルロース糖化酵素を生産・回収するための新システムは、多様なエタノール変換プロセスに対応した糖化酵素の安定的生産・供給を可能とする。

  • キーワード:リグノセルロース、バイオエタノール、糖化酵素生産、生産酵素組成制御
  • 担当:バイオマス利用・エタノール変換技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-8015
  • 研究所名:食品総合研究所・食品素材科学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

セルロース系バイオマス原料を用いて100円/L程度の低コストでバイオエタノールを製造するためには、リグノセルロース糖化酵素の生産コストを大幅に低減する必要がある。糖化酵素は種々の特性を有する酵素群から構成されており、Trichoderma reesei等の糖化酵素生産微生物をセルロース等の炭素源を用いて培養することで生産される。一方で、バイオマス原料の特性や前処理法により、効率的糖化に必要となる酵素群の組成は異なる。このため、原料特性や前処理法に対応した糖化酵素群を効率的に生産・供給するためのシステムの構築は非常に重要である。そこで、種々の可溶性糖質混合液を連続的に添加しつつ培養(連続添加培養)して生産される酵素群の特性を解析し、多様な原料や前処理法に応じて生産調節が可能な、効率的な糖化酵素生産システムを開発する。

成果の内容・特徴

  • 既に開発しているTrichoderma reesei M2-1株(グルコース存在下で効率的なセルラーゼ生産が可能な変異株)を用い、グルコース等の可溶性糖質混合液を連続的に添加しつつ培養を行うことによる酵素生産システムであり、糖質混合液の組成と供給量等の添加様式を調節することで生産酵素群(酵素カクテル)の組成を制御することが可能となる。
  • 3種類の糖質混合液(A.グルコース:セロビオース(混合比6:1)、B.グルコース:キシロース:セロビオース(同3:3:1)、C.グルコース:キシロース:アラビノース:セロビオース(同6:3:3:2))各々を用いて約55g/日の速度で連続供給しつつ、変異株M2-1を培養した場合、すべての生産酵素カクテルのタンパク質濃度は50~60g/Lであり、セルロース分解酵素活性はほぼ同等となる(図1)。
  • 混合液BまたはCで生産された酵素カクテルのヘミセルロース分解活性は、混合液Aと比較して2倍以上高く、特に混合液Cではα-L-アラビノフラノシダーゼ活性が5倍以上高い(図1)。
  • 糖質混合液BやCを用いて生産した酵素カクテルが水酸化カルシウム処理稲わらを分解する能力は、市販酵素製剤混合液と比較して3~4割程度高い(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 可溶性糖質混合液としては、セルロース系バイオマス糖化物や澱粉水解物等の低コスト・低純度の糖液の利用も可能と予想される。ただし、このような糖液を用いる際、夾雑成分が酵素カクテルの品質や生産量に及ぼす正負の効果を検証する必要がある。
  • 多様な原料や前処理法に対応した糖化酵素生産が可能となることから、異なる原料を用いる周年稼働型エタノール生産プラントにおけるオンサイト酵素生産への活用が想定される。
  • 本技術を用いた酵素生産培養の(半)連続化が可能となれば、培養槽や生産酵素保管設備などの縮小にも繋がり、より一層の酵素生産コスト低減が期待できる。

具体的データ

図1. 3種類の糖質混合液を用いて生産した酵素カクテルの活性比較
図2.変異株生産酵素及び市販酵素混合液による水酸化カルシウム処理稲わら糖化効率の評価

(池正和、徳安健)

その他

  • 中課題名:セルロース系バイオマスエタノール変換の高効率・簡易化技術の開発
  • 中課題番号:220c0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(バイオマス)
  • 研究期間:2007~2011年度
  • 研究担当者:池正和、徳安健
  • 発表論文等:池ら(2010) Appl. Microbiol. Biotechnol. 87:2059-2066