トマト果柄のジョイントレス形質に関与する新規遺伝子

要約

トマトの転写因子MCは転写因子JOINTLESSと複合体を形成して果実の脱離に関わる果柄の離層形成を制御しており、MC遺伝子の発現抑制により離層形成を抑制(ジョイントレス化)できる。この離層形成制御機構は多様な植物に共通である可能性がある。

  • キーワード:トマト、落果制御、ジョイントレス、転写因子、イネ脱粒
  • 担当:加工流通プロセス・食品生物機能利用
  • 代表連絡先:電話 029-838-8058
  • 研究所名:食品総合研究所・食品バイオテクノロジー研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

通常トマトは果柄に形成される離層から果実が脱離するが、離層が形成されないジョイントレス変異を有するトマトは収穫時に果実とヘタの間で脱離し、果実標品へのヘタの混入が避けられるため、現在の加工用トマト品種はジョイントレスタイプが主流となっている。離層形成制御に関与する遺伝子は今のところJOINTLESS (J) 遺伝子が知られているが、その作用機構は不明な点が多い。我々は、トマトの離層形成機構の解明、及び将来的には作物全般に利用できる組織脱離制御法の開発を目指しており、本研究では、新たに発見したトマトの果柄離層形成制御遺伝子について作用機構を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • MC遺伝子はMADSボックスファミリーに属する転写因子をコードしている。遺伝子組換え法によりアンチセンス遺伝子を導入し、MC遺伝子の発現が強く抑制された場合、野生型果柄中央に形成がみられる離層部位(図1A)の形成が完全に抑制され(図1C)、また、不完全な抑制では離層形成も部分的に抑制される(図1D)。
  • MCタンパク質は、従来から知られている離層形成変異jointless(図1B)の原因遺伝子Jの産物であるJタンパク質と、複合体を形成することにより強いDNA結合性を獲得する(図2)。また、これらの複合体形成は、酵母ツーハイブリッド法によっても確認されている(発表論文2)。
  • JMCと同様、MADSボックス転写因子をコードしている。MADSボックス転写因子ファミリーは複合体を形成してDNA結合性を獲得し、機能する例が知られていることから、MCおよびJタンパク質が複合体を形成し、この複合体がゲノム上の特異的配列に結合して離層形成に必要な遺伝子の発現制御を行っていると考えられる。
  • 果柄においてMCおよびJOINTLESSに発現制御されている遺伝子には、植物普遍的に生長点で機能する転写因子群の相同遺伝子BlGOBLsLeWUSが含まれる(発表論文2)。これらの4遺伝子はトマト果柄の離層特異的に発現している(図3)。このうちBlGOBについて、相同遺伝子が脱粒型イネの離層部でも特異的に発現しており、またLs相同遺伝子も特異性は若干低いが離層での発現が認められる。従って、これらの遺伝子発現共通性から双子葉および単子葉植物の両者に共通な離層形成機構が予想される。

成果の活用面・留意点

  • 多くの植物においてMCおよびJOINTLESSの相同遺伝子が認められるが、通常、ゲノム上に複数の相同遺伝子が存在し、大半は離層形成以外の機能を持つことが予想される。従って、他植物の離層形成制御に関与する相同遺伝子の決定は容易ではないと予想される。他作物におけるこれら相同遺伝子の利用にはさらなる検討が必要と思われる。
  • イネやトマトでは既に低脱粒型あるいは離層非形成型の植物があり、実用的に利用されている。今後、リンゴ等の果樹で離層形成抑制技術を新たに開発すれば、台風による落果被害を大きく抑制できることが期待される。

具体的データ

図1 トマトMC遺伝子の離層形成制御への関与
図2 ゲルシフトアッセイ法によるMCとJOINTLESS(J)のヘテロ二量体形成とDNA結合性図3 トマト(左)と脱粒型イネ(右)の離層形成部特異的発現遺伝子の共通性

(伊藤康博)

その他

  • 中課題名:新需要創出のための生物機能の解明とその利用技術の開発
  • 中課題番号:330d0
  • 予算区分:交付金、イノベーション創出
  • 研究期間:2008~2011年度
  • 研究担当者:伊藤康博、中野年継、金原淳司(カゴメ)、北川麻美子(カゴメ)、前田英郎
  • 発表論文等:1) 伊藤ら「ジョイントレス形質を有するトマトの作出方法」特願2009-292286
                      2) Nakano et al. (2012) Plant Physiology 58(1):439-450