農産物中の放射性セシウムの簡易分析法の開発

要約

空間線量率が屋外0.2mSv/h、屋内0.1mSv/h程度の環境放射線レベルで、NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータを用いて暫定規制値(500Bq/kg)を確実に下回る農産物をスクリーニングするには、適切な遮へい体の使用や測定装置の選択など、測定条件への配慮が必須である。

  • キーワード:大麦、放射性セシウム、簡易分析NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータ、遮へい体
  • 担当:放射性物質影響ワーキンググループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8008
  • 研究所名:食品総合研究所・食品安全研究領域・食品工学研究領域・食品素材科学研究領域・応用微生物研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東日本大震災時の東京電力福島第一原子力発電所の事故で放出された放射性物質による食品の汚染で、事故から数ヶ月後に主として問題となる核種は、放射性セシウム(134Csと137Cs)である。しかし、厚生労働省の「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」(平成14年)に、NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータを用いた放射性ヨウ素の簡易分析法は収載されているが、放射性セシウムに関するものはない。そこで、麦、米等の穀類の収穫シーズンに向けて、つくば市の環境放射線レベル(平成23年7月時点)中で、NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータを用いた暫定規制値(500Bq/kg)を確実に下回る農産物をスクリーニングするための放射性セシウムの簡易分析法開発を目指したものである。

成果の内容・特徴

  • 3機種のNaI(Tl)シンチレーションサーベイメータを用いて測定した。バックグラウンド空間線量の計数率(cps)は、図1に示すように遮へい体の使用により著しく低下する。厚さ2cmの鉛による側面の遮へいを行うと、計数率は遮へいなしの時の値の1/10以下となり、その低下の割合は機種や検出器の結晶サイズに依存しない。なお、検出器の結晶サイズが大きくなると、入射する放射線量が増えるため、計数率は1インチの検出器に比べ2インチのほうが数倍大きい。
  • 汚染大麦試料(6点)について、NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータで測定した場合、図2に示すように各大麦試料に対する正味計数率(試料の計数率-バックグラウンド計数率)の平均値は、遮へい条件を変えても、試料の放射性セシウム(134Csと137Cs)濃度(Bq/kg)に対してほぼ直線的に増加する。しかし、1インチから2インチへ検出器が大きくなると、正味計数率の感度が改善され、繰り返し測定の標準偏差は小さくなる。さらに次式で求められる検出限界計数率も低くなる。
    検出限界計数率
  • 平成23年7月のつくば市の環境放射線レベル(屋外0.2mSv/h、屋内0.1mSv/h)でのNaI(Tl)シンチレーションサーベイメータを用いた農産物の放射性セシウムの確実なスクリーニングのためには、適切な遮へい体の使用や測定装置の選択などの配慮が必須である。

成果の活用面・留意点

本研究成果の掲載論文PDFを学会の承諾を得て、食総研ホームページ上で公開している。

平成24月4月施行予定の一般食品の新基準値100Bq/kgへの対応は、さらに検討を要する。

具体的データ

図1.鉛遮へい容器の使用による空間線量の低減効果
図2.大麦試料の放射性セシウム濃度と正味計数率

(亀谷宏美、萩原昌司、根井大介、木村啓太郎、松倉潮、川本伸一、等々力節子)

その他

  • 中課題名:
  • 中課題番号:
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011年度
  • 研究担当者:亀谷宏美、萩原昌司、根井大介、木村啓太郎、松倉潮、川本伸一、等々力節子
  • 発表論文等:亀谷ら(2011)日本食品科学工学会誌、58(9):464-469