蛍光指紋イメージングによるグルテン・澱粉・バターの3成分分布の同時可視化

要約

蛍光指紋と画像計測を組み合わせた「蛍光指紋イメージング手法」とスペクトル分解アルゴリズムにより、パイ生地中のグルテン・澱粉・バターの分布を可視化する。染色不要な同時・多成分可視化技術として様々な農産物・食品の成分分布把握に活用できる。

  • キーワード:励起・蛍光マトリックス、イメージング、多変量解析、脂質
  • 担当:加工流通プロセス・先端流通加工
  • 代表連絡先:電話 029-838-7991
  • 研究所名:食品総合研究所・食品工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

食品中の成分分布は最終製品の食感や風味を大きく左右するため、これまでに蛍光染色による観察が試みられている。しかしながら、煩雑な操作、試料の変質、定量性に乏しいこと等様々な問題点がある。そこで、試料に照射する励起光の波長を変化させながら,各励起波長における蛍光スペクトルを3次元的に重ね合わせて得られる蛍光指紋を画像計測と組み合わせて対象中の成分分布を非染色で可視化する「蛍光指紋イメージング」に着目する。現在までにグルテン及び澱粉の成分分布可視化は報告されているが、蛋白質・澱粉に加え、食品構造の重要な要素である脂質(油脂)も加えた3成分の同時可視化を行う。そのため、3成分を含有し食感が重要とされる折りパイ生地を実験に供試し、拘束条件付きスペクトル分解をデータ解析に適用する。

成果の内容・特徴

  • 励起光側と蛍光観察側の両方にバンドパスフィルタの切り替え機構を持つ蛍光指紋イメージング装置(図1)により、画素単位で対象試料の蛍光指紋を取得する。蛍光指紋は成分固有のパターンを持ち、含有率に応じて強度が変わるため、各画素に存在する成分の同定と、その含有率推定が可能となる。
  • (1)各画素におけるこれら3成分の含有率は非負値である、(2)各画素の蛍光指紋は3成分(グルテン、澱粉、バター)の蛍光指紋の線形和であり、その和は100%となる、という2つの拘束条件のもと、得られたデータにスペクトル分解アルゴリズムを適用する(図2)。
  • 上記により各画素における3成分の含有率を計算する。グルテンの含有率に応じて各画素を黒(含有率0%)から青(含有率100%)に彩色する。同様にして、澱粉(黒から緑)、バター(黒から赤)の含有率に応じた彩色も行う。このようにして得られた3成分の同時可視化結果を図3に示す。
  • 蛍光指紋イメージングによる成分分布可視化結果を検証するため、同一試料を蛋白質・油脂の二重染色に供試する(図3右)。両者を比較すると、澱粉の粒状構造、その間を縫うグルテンのネットワーク構造、厚いバター層の構造や澱粉・グルテンの間に局在する微小油滴の存在が前者においても良く再現できていることが分かる。

成果の活用面・留意点

  • 澱粉とバターの蛍光指紋パターンは類似しており、従来用いられてきた主成分分析や蛍光指紋の類似度に基づく可視化手法では両者の分布を正確に再現できない。拘束条件付きスペクトル分解のアルゴリズムを用いることにより、初めて澱粉と油脂成分を識別してそれぞれの分布を同時かつ正確に可視化することが可能となる。
  • 含まれている成分の数やそれぞれの特徴的な蛍光指紋パターン等、試料に関する事前情報をスペクトル分解の拘束条件に採用することにより、各成分の含有量推定の精度が向上する。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:先端技術を活用した流通・加工利用技術及び評価技術の開発
  • 中課題整理番号:330c0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:蔦瑞樹、杉山純一、粉川美踏(日本学術振興会特別研究員)、横矢直人(東京大学工学系研究科)、芦田祐子(不二製油株式会社)
  • 発表論文等:Kokawa M. et al. (2014) Food Bioprocess Tech. 印刷中