室間再現精度を向上させた改良親油性ORAC法

要約

改良親油性ORAC法は、室間共同試験に用いた全ての試料(抗酸化物質溶液、農産物抽出液)で分析法の妥当性の判断基準を満たした、信頼性の高い抗酸化能評価法である。

  • キーワード:抗酸化能評価、酸素ラジカル吸収能(ORAC: oxygen radical absorbance capacity)、妥当性確認、室間共同試験
  • 担当:食品機能性・機能性評価標準化技術
  • 代表連絡先:電話029-838-7991
  • 研究所名:食品総合研究所・食品機能研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

農産物・食品が有する様々な生体調節機能についての研究成果が蓄積されている。その中でも抗酸化能については多くの研究が行われている。農産物・食品中に含まれるトコフェロール等の親油性抗酸化物質は、これまでに開発した改良親水性(H-: Hydrophilic-)ORAC法(H-ORAC法)では抗酸化能が評価できない。これらの抗酸化能は親油性(L-: Lipophilic-)ORAC法(L-ORAC法)で測定する。本研究では、L-ORAC法で使用する器具や手順を修正した改良法を開発し、室間共同試験を実施して測定者や測定に用いる装置などが異なっても同程度の測定値となることを確認することで、標準的な農産物・食品の抗酸化能評価法を目指す。

成果の内容・特徴

  • L-ORAC法は、水溶液に溶解しにくい親油性抗酸化物質をメチル化シクロデキストリン存在下、緩衝液中に分散させて抗酸化能を測定する方法である。L-ORAC法原法では併行精度や室内精度が低い(表1)。
  • 改良L-ORAC法は、原法から大幅に逸脱しない範囲で改良(表1)を加えた手法である。室間共同試験のハーモナイズドプロトコルに準じて15研究室で実施した室間共同試験において、配付試料(抗酸化物質溶液2種、農産物抽出液3種)すべてで分析法の妥当性判断指標の一つであるHorRat値が0.5~2の範囲に入り、測定者や装置などが異なっても同程度の測定値となることが確認できたことから、本改良L-ORAC法は信頼性の高い測定法であると判断できる(図1)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:大学、地方自治体、企業等で食品分析に携わる全ての研究者、技術者、事業者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国
  • その他:改良L-ORAC法の標準作業手順書ならびにORAC値計算用テンプレートファイル(Microsoft Excel)を農研機構 食品研究部門ウェブサイト上に掲載し、ダウンロードを可能にする予定である。
  • 妥当性が確認された農産物・食品の抗酸化能測定法として、H-ORAC法と本改良L-ORAC法に、一重項酸素吸収能測定法(SOAC法)を加えた3つの手法が公開可能となる。今後この方法で測定されたデータの蓄積がなされ、様々な分野に応用される。
  • 本測定法の普及により、高抗酸化能品種の選抜、抗酸化能を高める栽培法の開発や、第三者認証を伴った農産物の抗酸化能の表示等を通じ、抗酸化能を指標とした農産物・食品の高付加価値化・ブランド化がはかられる。また、抗酸化物質摂取による健康維持・向上効果に関する疫学調査のための基礎データの蓄積が可能となる。

具体的データ

図1,表1

その他

  • 中課題名:健康機能性に関する成分分析法及び評価法の開発と標準化
  • 中課題整理番号:310a0
  • 予算区分:交付金、先端プロ、競争的資金(科研費基盤B)
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:渡辺純、石川祐子、沖智之、箭田浩士、安井明美、竹林純(国立健康・栄養研)
  • 発表論文等:
    1) 2012年度主要普及成果情報「室間再現性度を高めた改良親水性ORAC法の開発と標準化」
    2) Watanabe J. et al. (2013) Biosci. Biotechnol. Biochem. 77(4): 857-859
    3) Watanabe J. et al. (2016) Anal. Sci. 32(2): 171-175