Theileria sergenti実験感染牛におけるシゾントの発育過程と宿主細胞の解明

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要約

小型ピロプラズマ病の原因となるTheileria sergentiの牛体内におけるシゾント発育過程(シゾゴニー)及びシゾントが形成される宿主細胞について解明した。

  • 担当:家畜衛生試験場・研究第三部・病理第2研究室
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:乳用牛・肉用牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

Theileria sergenti(TS)のシゾントは,これまで感染ダニ付着部近接リンパ節,肝及び脾において病理組織学的に検出されている(Sato et al.,1993)が,シゾントの発育過程は解明されていない。このため病理組織学的,免疫組織化学的及び電顕的観察などにより,TSのリンパ節内におけるシゾント発育過程を明らかにし,さらにシゾントが形成される宿主細胞を同定した。

成果の内容・特徴

  • 健康子牛の耳根部にスポロゾイト(TS池田株感染フタトゲチマダニ唾液腺乳剤)を感染させた牛においては,接種後4日よりシゾントがみられ,その発育に伴って宿主細胞の巨大化が認められた(図1)。接種後6日からマクロシゾント(核分裂期,図2)が,8日ではミクロシゾント(メロゾイト形成期,図3)及びメロゾイト(赤内型移行期及び赤内型,図3)が観察された。これら一連の発育期はTSの第1代シゾゴニーであるものと考えられた。TS原虫自体の発育様式は東海岸熱の原因であるTheileria parvaなどに一致するものであったが,T. parvaでみられるようなシゾントの分裂に伴う宿主細胞の芽球化等は観察されなかった。
  • TSシゾントの宿主細胞は,組織化学的染色及び細胞抗原(Tリンパ球,Bリンパ球,血管内皮細胞等)に対する抗体を用いた酵素抗体染色では,陽性所見が得られなかった。しかし,宿主細胞は細網線維を巻き込むかあるいはこれに接して観察され,さらに電顕的観察により,宿主細胞の周囲にはデスモゾーム様構造が認められることから,TSシゾントの宿主細胞は細網細胞であることが示唆された。

成果の活用面・留意点

Theileriaが属するApicomplexa亜門原虫では通常,宿主体内で2回以上のシゾゴニーが行われることが知られており,今回観察された過程と異なるシゾゴニーの存否を検索していく必要がある。TSシゾントの宿主細胞が細網細胞であるとすれば,シゾゴニーがリンパ球内で行われるというTheileria属原虫の定義に合致せずTSをTheileria属に帰属させることには問題があり,さらに詳細な検討が必要となるものと思われる。

具体的データ

図1~図4

 

その他

  • 研究課題名:小型ピロプラズマ病感染牛の病原病理学的検討
  • 予算区分:経常研究
  • 研究期間:平成5年度(平成元年度~平成5年度)
  • 研究担当者:佐藤真澄,田中省吾,谷口稔明
  • 発表論文等:
    1)Sato,M., Kamio,T., Kawazu,S., Taniguchi,T., Minami,T. & Fijisaki,K:Histological observations on the schizonts in cattle infected with Japanese Theileria sergenti. J. Vet. Med. Sci. 55:571-574(1993).
    2)佐藤真澄,神尾次彦,田中省吾,谷口稔明,藤崎幸蔵 Theileria sergentiシゾントの宿主細胞の同定。 第117回日本獣医学会講演要旨,p.137(1994).
    3)Sato,M., Kamio,T., Tnaka,S., Taniguchi,T. & Fujisaki,K.;  Development of Theileria sergenti schizonts in the lymph node of experimentally infected cattle. J. Vet. Med. Sci. 56: 715-722(1994).