豚丹毒菌の病原因子の解析

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要約

トランスポゾンTn916による挿入突然変異を利用して豚丹毒菌の病原因子の解析を行った。その結果,本菌は莢膜を保有しており,宿主食細胞に対する貪食抵抗能が本菌の病原因子のひとつであることが明らかとなった。

  • 担当: 家畜衛生試験場 製剤研究部 生理活性物質研究室
  • 連絡先:0298-38-7857
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:豚
  • 分類:研究

背景・ねらい

豚丹毒は豚丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)によって起こる豚の伝染病であり,我が国においては家畜法定伝染病の一つに指定されている。本菌の病原因子に関しては,これまでにヒアルロニダーゼ,ノイラミニダーゼ,細胞付着能等が報告されてきた。しかしながら,これらの病原因子に対して遺伝子レベルで解析されたものはなく,本菌の病原性については未だ不明の分野が多く残されている。そこで,今回トランスポゾンTn916による挿入突然変異を利用して豚丹毒菌の病原因子の解析を行った。

成果の内容・特徴

  • フィルターメイティング法により,Tn916を保有するEnterococcus faecalis CG110株から豚丹毒菌の強毒株である藤沢株のストレプトマイシン耐性標識株Fujisawa-SmR株にTn916を接合伝達させた。その結果,約6,000株のトランスポゾン挿入変異株を得た。
  • その中から,親株とコロニー形態の異なった変異株(33H6株,28G12株,28G5株)を選び出した(図1)。サザン-ハイブリダイゼイションにより,これらの変異株は一個から数個のトランスポゾンを有していることが確認された。また,33H6株よりトランスポゾンが脱落した株(33H6-R)はトランスポゾンの脱落と同時にコロニー形態が復帰した。
  • これらの変異株は,いずれもマウスに対して病原性を失っていたが,トランスポゾン脱落株である33H6-R株は病原性を回復していた(図2)。
  • これらの変異株のマウス食細胞に対する貪食抵抗能を調べたところ,親株と33H6-R株は正常血清存在下で好中球による貪食作用に抵抗したが,これらの変異株はいずれも貪食された(図3)。
  • 電顕によって菌体表層の観察を行ったところ,親株には菌体最外層に莢膜構造が認められたのに対し,変異株にはこのような構造物は認められなかった(図4)。これらのことから,本菌も他の莢膜保有病原体と同じように,莢膜による貪食抵抗能が重要な病原因子であると考えられた。

成果の活用面・留意点

今回得られた成果により,豚丹毒菌感染症の発病機構の一端が解明され,本病の予防対策に有益な資料となる。

具体的データ

図1 変異株のコロニー形態

図2 変異株のマウスに対する病原性

図3 マウス好中球による変異株の貪食能試験

図4 豚丹毒の電子顕微鏡写真

その他

  • 研究課題名:豚丹毒菌に対する生体防御機構の解明
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成6年度~平成9年度
  • 発表論文等:1) Presence of a capsule in Erysipelothrix rhusiopathiae and its
                        relationship to virulence for mice.Infect.Immun 62:2806-2810.