牛の幹細胞成長因子(stem cell factor)遺伝子cDNAのクローニング

要約

幹細胞成長因子(SCF)は免許関連細胞の増殖に関与するサイトカインである。牛SCFを用いての牛各種疾病に対する免疫学的防除法の開発を目指して,牛SCF遺伝子cDNAをクローニングし,塩基配列を決定した。

  • 担当: 家畜衛生試験場 生体防御研究部 分子免疫研究室・農林水産先端技術研究所
  • 連絡先:0298-38-7790
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:生体防御
  • 対象:牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

サイトカインは免疫関連細胞等の増殖や機能発現を調節する一群のタンパク質である。現在,サイトカインを用いた家畜疾病の免疫学的防除・治療法の開発を目指して,世界各国で各種サイトカイン遺伝子のクローニング,遺伝子を用いた組換えサイトカインの生産等,研究が進められている。幹細胞成長因子(stem cell factor,SCF)は,各種の造血系細胞の増殖に必須なサイトカインである。従って,SCFを,家畜疾病の診断や治療の手段として応用できる可能性が高い。本研究では,牛SCFを用いた,牛の各種疾病に対する免疫学的診断・治療法の開発を目指して,その第一歩として,牛SCF遺伝子cDNAをクローニングし,塩基配列を決定した。

成果の内容・特徴

  • マウスSCF遺伝子のcDNA断片をプローブとして牛胎児大脳cDNAライブラリーをスクリーニングして,一個の牛cDNAクローンを得た。この塩基配列を決定した結果,このクローンにはSCFのアミノ酸をコードする領域の一部分のみが含まれていることがわかった。
  • コード領域全体をクローニングするため,牛胎児脾臓polyA+RNAを鋳型として1本鎖cDNAを合成し,さらに,上記のcDNAの塩基配列を基に作製したオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCRを行った結果,3個のcDNAクローンを得た。
  • これらのうちの2個の塩基配列を決定した結果,牛SCFのアミノ酸配列が明らかになった。その配列は,ヒト,マウスおよび豚SCFに対して,それぞれ,84.7%,79.6%,および,94.5%と高い相同性を示した(図1)。
  • もう一個のクローンは,アミノ酸配列のうち31残基の領域を欠失した亜型の牛SCFをコードするものであることがわかった。これは,ヒト・マウスにおいて報告されている膜結合型SCFが牛にも存在することを示すものである。
  • 牛cDNAをプローブとしたノザンブロット解析の結果,長さ約5,800塩基のSCF遺伝子mRNAが牛胎児大脳および脾臓で発現していることが確認された(図2)。

成果の活用面・留意点

牛SCF遺伝子cDNAが得られたことにより,これを用いた組換えSCFの大量生産が可能となった。この成果は,牛SCFを用いた牛疾病の免疫学的診断・防除法開発のための基礎となるものである。

具体的データ

図1 牛SCFのアミノ酸配列と他の動物種のそれとの比較

図2 牛SCF遺伝子mRNAの発現

その他

  • 研究課題名:牛幹細胞成長因子遺伝子の構造解析
  • 予算区分 :経常(農林水産先端技術研究所との交流共同)
  • 研究期間 :平成3年度~平成5年度
  • 発表論文等:1) Cloning and characterization of cDNAs encoding two
                      normal isoforms of bovine stem cell factor.Biochim.
                      Biophys.Acta 1223:148-150(1994).
                      2) 第117回日本獣医学会講演要旨集 p.147(1994).