レトロウイルス感染阻止遺伝子の検索

要約

南アジアの野生マウスの染色体DNAには、レトロウイルスであるマウス白血病ウイルスのコピーが存在する。それらは同じ群のウイルス感染を阻止する機能を持ったり、感染性ウイルスを発現したりすることが明かとなった。

  • 担当:家畜衛生試験場生体防御研究部免疫遺伝研究室
  • 連絡先:0298(38)7757
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:生体防御
  • 対象:実験小動物
  • 分類:研究

背景・ねらい

レトロウイルスに感染された細胞は、同群のレトロウイルスの2次感染を干渉(阻止)するという一般的な現象がある。時には個体レベルでこの干渉現象を引き起こすことがある。Fv-4r遺伝子と名付けられたマウスの遺伝子はその一例である。Fv-4r遺伝子は、内在性マウス白血病ウイルス(内在性MuLV)と呼ばれる、マウス生殖系列DNAに組み込まれたMuLVのコピーの断片である。この遺伝子からウイルスの外皮(env)を形成する糖蛋白質部分が細胞表面に発現されている。このenv糖蛋白質が受容体干渉現象に類似の機構でウイルスの2次感染を阻止していると想定されるが、詳細については不明な点が多い。南アジアに生息する野生マウスはFv-4r遺伝子を高頻度持ち、さらに、Fv-4r遺伝子に近縁な内在性ウイルス遺伝子も多数持っているが、それらがFv-4r遺伝子の様にウイルス抵抗性機能があるかどうかは調べられていない。野生マウスは今まで余り解析されたことはなく、未知の白血病抵抗性遺伝子が存在する可能性もある。

成果の内容・特徴

  • MuLV抵抗性遺伝子の検索。南アジアで採取された2系統(Bgr, Ttg)の野生マウス(M. m. castaneus)は複数のFv-4r遺伝子に近縁な内在性MuLVを持ち、かつ急性赤芽球性白血病を起こすMuLVであるフレンド白血病ウイルス(FLV)に対し抵抗性であった。これらの野生マウスがFv-4r遺伝子以外の白血病抵抗性遺伝子を持っている可能性をマウスの交配実験で検討した。野生マウスとFLV感受性である実験動物マウス(NFS/NないしWHT)とを交配し、実験動物マウスへ戻し交配した1世代目のマウスを対象に、内在性MuLVの遺伝的分離、FLV感受性との相関を調べた(図1)。その結果、Fv-4r遺伝子だけがFLV抵抗性機能を持ち、その他のFv-4r遺伝子に近縁な内在性MuLVにはその様な効果は認められなかった。
  • Fv-4r遺伝子に近縁な感染性MuLVの検索。7つの内在性MuLVを持つ野生マウスBgrをそれを持たない実験動物マウスNFS/Nに繰り返し戻し交配をして、内在性MuLVを1つ持つマウス選び(図2)、脾臓から感染性MuLVの分離を試みた。その結果、7つの内在性MuLVの内(図2)、少なくとも3つ(Frg3,Frg4,Frg6)が感染性MuLVを発現できると考えられた。残りの4つの内、1つ(Frg2)はFv-4r遺伝子そのもの、3つ(Frg1,Frg5,Frg7)については、その効果は不明であった。

成果の活用面・留意点

南アジアの野生マウス集団には、核酸配列では近縁な内在性MuLVが多数存在していて、感染阻止遺伝子として働くものと感染性ウイルスを産生できるものが混在している事が示された。感染阻止遺伝子として働く内在性MuLVはFv-4r遺伝子以外には見つからなかったが、それらの遺伝子構造上の違いを明確にすることは、強力なレトロウイルス感染防御機能を決定する分子機構を理解する上で重要であろう。

具体的データ

図1.MuLV抵抗性遺伝子の検索。

 

図2.野生マウスが持つ7つの内在性MuLVとそのマウスに由来する単一の内在性MuLVを持つ個体。

 

その他

  • 研究課題名:宿主のレトロウイルス感染阻止遺伝子の解明
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成6年度~8年度
  • 発表論文等:Genetics in wild mice, p.67-83 (1994)