肥育豚由来Mycoplasma hyorhinis及びM. hyosynoviaeの薬剤感受性動態

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要約

肥育豚由来Mycoplasma hyorhinis及びM. hyosynoviaeの薬剤感受性試験を実施し,有効薬剤に対する耐性株の存在を明らかにするとともに,これらの株の耐性性状を調べた。

  • 担当:家畜衛生試験場 細菌・寄生虫病研究部 細菌病研究室
  • 連絡先:0298(38)7739
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:豚
  • 分類:指導

背景・ねらい

肥育豚の呼吸器系や関節液から頻繁に分離されるMycoplasma hyorhinisおよびM. hyosynoviaeに よる感染症は畜産先進国において深刻な問題となっている。これらのマイコプラズマ感染症はウイルスおよび細菌の混合感染と家畜環境要因などが複雑に絡み合 うことにより重篤化し,肥育豚の事故率を大幅に上昇させている。しかもこれらのマイコプラズマ感染症対策としてワクチンは開発されておらず,抗菌剤による 予防治療が唯一の防除手法となっている。そこで,肥育豚から分離したこれらのマイコプラズマの薬剤感受性について調査し,分離株の薬剤感受性の動態を観察 した。

成果の内容・特徴

  • 発育不良豚38頭由来M. hyorhinis107株(1991~1995年分離),と畜場出荷豚15頭の関節由来M. hyosynoviae15株およびと畜場出荷豚12頭の肺由来M. hyosynoviae12株(1994~1995年分離)を新鮮分離株として薬剤感受性試験に供試した。さらに薬剤感受性動態の観察のため,M. hyosynoviaeに関しては実験室保存27株(と畜場出荷豚関節液由来10株,同肺由来17株;1980~1984年分離)も上記と同様に薬剤感受性試験に供試した。
  • M. hyosynoviaeの分離部位による薬剤感受性の差異は認められなかったが,分離年による差異はテトラサイクリン系抗生物質のそれで確認された (表1) 。すなわち新鮮分離株はこれらの抗生物質に対し耐性傾向にあることが判明した。さらにM. hyorhinisおよびM. hyosynoviaeの新鮮分離株の中には5~10%程度の割合でマクロライド系抗生物質(JM,TS等)に対する耐性株が存在することが判明した (表1) 。
  • 上記のマクロライド耐性株は抗生物質無添加培地に継代培養することにより,その耐性を消失することから誘導型耐性であることが判明した。 図1-1および図1-2にマクロライド系抗生物質に耐性を示したM. hyorhinisおよびM. hyosynoviaeの新鮮分離株のキタサマイシンに対する最小発育阻止濃度(MIC)の変化を示した。

成果の活用面・留意点

In vitro においてマイコプラズマに対し有効とされてきたマクロライド系やテトラサイクリン系抗生物質の耐性菌が豚のマイコプラズマで見い出された。このことはこれ らの抗生物質が豚のマイコプラズマ感染症対策に無効である場合があると考えられる。一方,チアムリン(TML)およびエンロフロキサシン(ERFX)は豚 のマイコプラズマに対し抗菌活性が高く,しかも耐性菌の報告はなく,とくにERFXは一般細菌感染症に対しても効果のある抗菌物質とされることから,肥育 豚におけるM.hyorhinisあるいはM. hyosynoviaeの感染予防および治療に効果があるものと期待される。

具体的データ

表1 Mycoplasma hyorhinis およびM. hyosynoviaeの薬剤感受性成績

図1-1 抗生物質無添加培地での各継代後におけるM.hyorhinisマクロライド耐性株のキタサマイシンに対するMICの変化

図1-2 抗生物質無添加培地での各継代後におけるM.hysynoviaeマクロライド耐性株のキタサマイシンに対するMICの変化

その他

  • 研究課題名:豚由来Mycoplasma hyorhinis及びM. hyosynoviaeの性状解明と病原性の検討
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成5年度~平成8年度
  • 発表論文等:
      1.Antimicrob. Agents Chemother., 40:1030-1032 (1996)
      2.J. Vet. Med. Sci., 58:1107-1111 (1996)