豚丹毒菌の病原因子の解析

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要約

豚丹毒菌の莢膜保有強毒株とトランスポゾン挿入無莢膜弱毒変異株のマウスマクロファージ内での生残性および活性酸素誘導能を解析した。その結果,正常血清存在下で莢膜保有強毒株はマクロファージ内で生残,増殖するのに対して無莢膜弱毒変異株は生残できないこと,また,莢膜保有強毒株はマクロファージから活性酸素を誘導しないが無莢膜弱毒変異株は強く誘導することが判明した。

  • 担当:家畜衛生試験場 製剤研究部 生理活性物質研究室
  • 連絡先:0298(38)7857
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:豚
  • 分類:研究

背景・ねらい

豚丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)は莢膜を保有しており,マウス好中球による貪食作用に抵抗する。 一方,本菌の病原性として食細胞内生残性が指摘されており,本菌と食細胞との相互作用は複雑である。そこで,マウスマクロファージによる貪食能ならびにマ ウスマクロファージ内における菌の生残性および活性酸素誘導能を莢膜保有強毒株とそのトランスポゾン挿入変異株である無莢膜弱毒株とを比較することによ り,本菌の病原性における莢膜の意義を解析する。

成果の内容・特徴

  • 正常、免疫血清存在下にかかわらず,莢膜保有強毒株(Fujisawa-SmR)と無莢膜変異株(33H6,28G12,28G5)のいずれもマクロファージに貪食されたが,貪食インデックス値は無莢膜変異株が強毒株に対して3~4倍多かった(図1)。
  • 正常血清存在下で食菌を受けた系では,強毒株は貪食後3時間目から細胞内菌数の顕著な増加を示したが,変異株はいずれも貪食後1時間目 から細胞内菌数の低下を示した。免疫血清存在下で食菌を受けた系では,強毒株,変異株のいずれも貪食後1時間目から細胞内菌数の低下を示した(図2)。
  • 菌の活性酸素誘導能をケミルミネッセンス・アッセイおよび細胞内NBT還元能により解析した。正常血清でオプソナイズされた菌に対する マクロファージの反応は,強毒株には弱く,弱毒株には強かった。免疫血清で菌をオプソナイズした場合,強毒株,弱毒株いずれの刺激に対しても細胞は強く反 応した(図3,4,表1)。
  • 以上の成績から,正常血清存在下においてマクロファージに貪食された莢膜保有強毒株は細胞内で生残・増殖するが,その機構として貪食時の活性酸素からの回避が関与すること,またその機構に本菌の莢膜が重要な役割を果たすことが示唆された。

成果の活用面・留意点

今回得られた成果により,豚丹毒菌感染症の発病機構の一端が解明され,本病の予防対策に有益な資料となる。

具体的データ

図1 マウスマクロファージによる豚丹毒菌の貧食能

図2 マウスマクロファージに貪食された豚丹毒菌の細胞内生残・増殖能

図3 豚丹毒菌刺激時におけるマクロファージの化学発光産生能

図4 豚丹毒菌貪食後のマクロファージ内NBT還元能試験

表1 豚丹毒菌貪食後のマクロファージ内NBT還元能試験

その他

  • 研究課題名:豚丹毒菌に対する生体防御機構の解明
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成6~9年度
  • 発表論文等:
      1.Shimoji Y. et al., Intracellular survival and replication of Erysipelothrix
        rhusiopathiae
    within murine macrophages : Failure of induction of the oxidative
        burst of macrophages. Infect. Immun., 64:1789-1793(1996).