ビタミンA制限飼料給与牛にみられる筋肉水腫("ズル肉")の病態

要約

  • ビタミンA制限飼料の給与により,黒毛和種牛に筋肉水腫を再現した。発症牛は血漿中レチノール濃度が10 IU/100ml以下となり,飼料摂取量が著しく低下することが明らかになった。病理学的変化として,骨格筋の間質の著しい水腫や血管壁の変性などが認められた。
  • 担当:家畜衛生試験場病態研究部上席研究官
  • 連絡先:0298(38)7776
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:牛
  • 分類:研究

背景・ねらい

近年,黒毛和種牛の筋肉の脂肪交雑性を高めるための肥育飼養法として,一定の飼養期間中にビタミンA(VA)の給与を制限する方法が普及している。しかし,この飼養法は生産者の経験に基づいたもので,技術的理論性が確認されないまま普及したため,肉質の市場価値は向上した反面,筋肉水腫(“ズル肉”)などの障害が増加し,経済的被害も増大している。筋肉水腫の発生機構については未解明な部分が多く残されており,その病態を明確にする必要がある。また,VA制限による飼養法の学問的裏付けを確認し,適切な飼養法を求め,畜産農家の経済性を向上させることが重要となっている。そこで,今回はVA制限飼料を給与した肥育牛について,血液生化学的検査や生検による肝臓組織,剖検後採取した各組織の病理検査を行い,筋肉水腫の病態を検討した。

成果の内容・特徴

  • 9頭の黒毛和種牛にVA制限飼料を9~10ヶ月齢から出荷月齢まで給与した。その結果,2頭が筋肉水腫,4頭が夜盲症,3頭が重度な尿結石症を示した。いずれも血漿中のレチノール濃度は10 IU/100ml以下で,肝臓中にVA自家蛍光やレチニール・エステルはまったく検出されなかった。
  • 筋肉水腫発症牛では,肥育期間中血漿レチノール濃度が漸次減少した(図1)。濃厚飼料摂取取量は剖検前の8~12週間頃から漸次低下し,剖検直前には発症前の1/3以下に減少した(図1)。臨床的には下肢部の腫脹(図2)や増体重の遅延が観察された。
  • 筋肉水腫は骨格筋の筋膜などに発生し(図3),組織学的には骨格筋の間質の結合組織の水腫性粗開,筋線維の変性と融解,小血管の拡張と小動脈壁内の硝子様物の沈着などの変化が観察された(図4)。四肢の繋部皮下組織の水腫,肝臓の肝細胞の萎縮,伊東細胞の扁平化,類洞壁の菲薄化,甲状腺濾胞内のコロイドの減少なども観察された。
  • 腫脹した下肢部や関節の重度な腫脹部は,超音波による画像診断で黒色域として認められたが,軽度な腫脹部は超音波での識別は困難であった。

成果の活用面・留意点

今回,VA制限飼料の給与により,野外発生例と同様の筋肉の間質結合組織の水腫等の病理学的変化を特徴とする筋肉水腫を再現することができた。VA制限による筋肉水腫の発症直前に飼料摂取量が著しく低下することは,生産現場での指導の一助となると思われる。今後,飼料摂取量と水腫の発現との関連性,VA欠乏と骨格筋,肝臓および甲状腺で認められた病理学的変化との関連性について検討する必要がある。

具体的データ

図1.濃厚飼料摂取量と血漿中のレチノール濃度

 

図2.筋肉水腫発症牛の左後肢の著しい腫脹図3.骨格筋の間質にみられた著しい水腫

図4.筋肉水腫例の骨格筋、筋線維の変性・融解と間質の水腫

その他

  • 研究課題名:牛の筋肉水腫(“ズル肉”)の発生に関する病理・生化学的解明
  • 予算区分:経常(場内プロジェクト)
  • 研究期間:平成8年度~平成9年度
  • 発表論文等:獣医畜産新報,50:65-67 (1997)