パルスフィールドゲル電気泳動法を用いた遺伝子型別による牛乳房炎起因菌Staphylococcus aureusの酪農家における生態の解明

要約

牛乳房炎起因菌Staphylococcus aureusの酪農家における生態をパルスフィ-ル ドゲル電気泳動法を用いた遺伝子型別手法により解析し,本菌の酪農家における生態の 一部を解明した。

  • 担当:家畜衛生試験場総合診断研究部病原診断研究室
  • 連絡先:0298(38)7798
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:牛
  • 分類:指導

背景・ねらい

Staphylococcus aureusは伝染性乳房炎の重要な起因菌の一つであり,わが国では本菌による乳房炎の被害が最も大きい。乳房炎を防除するためには適切な治療だけではなく感染源の除去や感染経路の遮断も有効な方法である。しかし,そのことを考えるための本菌の生態は必ずしも十分には解明されていない。そこで,乳房炎罹患牛,畜舎,搾乳施設・機材,酪農従事者など,搾乳牛を取り巻く様々な環境から分離されるS. aureusを分子遺伝学的手法によって精緻に型別し,S .aureusの生態を明らかにすることにより,感染源の除去,感染経路の遮断による乳房炎防遏のための基礎知見を得ることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 乳房炎乳由来保存S. aureus59株(54酪農家由来)をパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)により遺伝子型別したところ,23種類の型に区別されPFGEによる遺伝子型別が本菌の生態を解析するために有効であることが示唆された。
  • S. aureusによる乳房炎が発生した3酪農家の乳房炎罹患牛を含む様々な部位からS. aureusを経時的に分離し,PFGEによりそれらの菌の遺伝子型を決定した。
  • 3酪農家の解析結果をまとめると,
    (1)各酪農家において乳房炎乳由来株と牛体・環境由来株の遺伝子型はほぼ一致した。
    (2)乳房炎乳由来株の遺伝子型は酪農家ごとに異なり,各酪農家においては同じ型の株による感染・汚染が数カ月以上継続した。
    (3)分房レベル及び個体レベル(複数分房の乳房炎)では異なる遺伝子型S. aureus株の混合感染による乳房炎発生はほとんどないものと推察された。
    (4)環境の多くの部位からS. aureusが分離された1酪農家では,S. aureusによる乳房炎が発生していない時期においても搾乳器具から同じ型のS. aureusが分離され,搾乳衛生の不備がその後の乳房炎の発生の一因になると考えられた。
    (5)乳房炎乳汁由来S. aureusと同じ遺伝子型のS. aureusは鼻腔,後肢趾間裂,球節表面,体躯の傷口,作業者,搾乳器具などから分離された。

成果の活用面・留意点

乳房炎対策マニュアルとして農林水産省経済局から出されている「乳房炎の診療指針」(1993)のS .aureusによる乳房炎の特徴及び防除方法についての項に,次の事項を追加することが望ましい。

  • S. aureusによる乳房炎の特徴」に追加することが望ましい事項
    (1)乳房炎を起こしているS. aureusは身体の傷口,後肢趾間裂,球節表面,鼻腔或いは分娩房床などにも生息している。
    (2)S. aureus による乳房炎が続発する酪農家では長期間,乳房炎を起こしているS. aureus により牛体,環境が広く汚染されている。
  • S. aureusによる乳房炎の防除方法」に追加することが望ましい事項
    (1)できるだけ身体に傷を付けないような管理を行い,できた傷は十分に消毒する。
    (2)S. aureusによる乳房炎が続発する酪農家では,環境性乳房炎起因菌対策と同様の対策をあわせて講じる。

その他

  • 研究課題名:分子疫学的手法による乳房炎起因菌の酪農環境内動態の解明
  • 予算区分:特研「高品質乳」
  • 研究期間:平成6年度~平成8年度
  • 発表論文等:
    • 第63回日本細菌学会北海道支部学術総会抄録集,(1995)
    • 第121回日本獣医学会講演要旨集,p140(1996)
    • 第64回日本細菌学会北海道支部学術総会抄録集,p.20-21(1996)
    • 家畜診療,404:5-15(1997)
    • 環境ストレス低減化による高品質乳生産マニュアル,p.107-115(1997)