豚コレラの発生による経営損失の推定

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要約

野外における豚コレラの発生を想定し,豚コレラワクチン未接種の養豚一貫経営農家における損失額の推定を行なった。経営における豚コレラの総損失額は,繁殖雌豚頭数および月平均売上高をそれぞれ用いた一次回帰式で推定することができる。さらに同じ発生経過をとる口蹄疫にも適用可能である。

  • 担当:家畜衛生試験場 九州支場 支場長
  • 連絡先:099(268)2078
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:疫学
  • 対象:豚
  • 分類:行政

背景・ねらい

1996年度より開始された豚コレラ撲滅対策は,従来の豚コレラ生ワクチン接種に依存してきた本病の防疫対策を,ワクチンを使用しない完全な撲滅体制に5 年間で移行する事業である。この事業の実施過程において,仮にワクチン未接種状態にある養豚一貫経営農家で豚コレラが発生した場合に,経営における豚コレ ラ被害額算定の基礎となる疾病損失額の推定を行なった。

成果の内容・特徴

  • 疾病損失の推定には,鹿児島県畜産会が1995年に行なった養豚一貫経営農家18戸の経営診断調査成績から損益計算書を用いて繁殖雌,同雄,哺乳,育成および肥育豚の月平均飼養頭数,売上げ高,当期生産費および販売・管 理経費をデータとして抽出した。
  • 養豚一貫経営農家の損益計算は販売肥育豚の生産費評価が主体であるが, 疾病発生の場合には経営体におけるすべての豚が損失評価の対象になる。
  • 仮にワクチン未接種農家で豚コレラが発生した場合に,1ヶ月以内に多数の飼養豚が死亡,残りも蔓延防止のため殺処分(廃用)となる。また,豚コ レラの発生は迅急性で,連続発生はないので発生月単位の疾病損失額とした。
  • 販売肥育豚1頭当りの営業費(当期生産費+販売・管理経費)から各飼養豚1頭当りの営業費を推定し,生産途中の豚は変動費(飼料費の未消費部分) を評価した。
  • 繁殖豚は,種豚減価償却費に平均1/2の償却残があると仮定し,それを除却費とした。
  • 疾病費は,豚コレラ発生時の消毒,死亡・殺処分屍体処理費などで,繁殖豚は1頭当り4,000円,その他は2,000円と仮定した。
  • 疾病損失額は,繁殖豚は(営業費+除却費+疾病費),その他の豚は(営業費+疾病費)で計算した。
  • 鹿児島県における養豚一貫経営農家18戸のデータを用いた各飼養豚の平均個体損失額は推定された(単位:円)。
  • 経営体の総損失額 (y:100万円単位) は,養豚一貫経営における繁殖雌豚頭数 (x)を用いて,一次回帰直線y=1.5046+0.2127xで推定できる(相関係数r=0.986**)。また,同総損失額 (y) は,月平均売上げ高 (z : 100万円 単位)を用いて,y=2.8334+4.0607zでも推定可能である(r=0.977**)。
  • 月平均売上げ高(z)を基準にした経営体における豚コレラ疾病損失比 (y/z)は,18戸の平均値で5.05倍(GM), その95%信頼限界は5.45から 4.67倍と推定された。

成果の活用面・留意点

    経営における豚コレラ発生による総損失額の推定は, 養豚一貫経営の経営診断成績データを基礎としており,全国的に適用が可能である。また,豚コレラ発生時における地域の被害額算定にも応用でき,さらに同じような発生経過をとる口蹄疫にも適用が可能である。

具体的データ

その他

  • 研究課題名:豚コレラ撲滅プログラム実施過程の疫学的追跡調査
  • 予算区分:経常(場内プロ)
  • 研究期間:平成9年度(平成8~9年)
  • 発表論文等:
  • 小河 孝,畠山 英夫:全死亡・廃用をもたらす豚疾病の経営損失,平成9年度日本産業動物獣医学会九州地 区学会講演要旨集,p.48 (1997)