サイトカイン遺伝子の簡易迅速合成法(SPR法)の開発

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要約

人工遺伝子を簡便かつ迅速に作製する手法としてSPR法(Self Polymerase Reactionを開発し,ウマインターフェロンα1及びγ遺伝子を作製した。

  • 担当:家畜衛生試験場 海外病研究部 予防疫学研究室
  • 連絡先:041(321)1441
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:生体防御
  • 対象:家畜類
  • 対象:研究

背景・ねらい

人工遺伝子は野生型遺伝子に比べて,発現した時の組換え型蛋白質の生産量が多く,制限酵素切断部位を自由に設定できるなど,数々の利点を有している。また人工遺伝子は,ハイブリッド蛋白質など自然界に存在しない未知の有用物質を作製するための唯一の方法でもある。しかし作業工程が煩雑で難しく,完成までに長期間を要することから,未だ作製されている例は多くない。そこで本研究では,2本のDNAが互いを鋳型として複製して,完全な2本鎖DNAになる現象に着目し,これを利用してサイトカイン遺伝子を人工合成することを試みた。

成果の内容・特徴

  • SPR(Self Polymerase Reaction)とは,末端部の数10塩基が相補するプラス鎖とマイナス鎖の1本鎖DNAを用いて,各々を鋳型兼プライマーとして酵素(Polymerase)反応させ,完全な2本鎖DNAにする方法である。 図1 にSPR法と従来法で,同じ長さの遺伝子を合成する場合の実験操作の比較を示す。SPR法では作業行程が大幅に簡略化されており,従来法で数週間かかる実験作業がわずか数時間に短縮された。
  • ウマインターフェロンα1及びγのアミノ酸配列を元に,酵母や昆虫細胞における至適コドンに適合し,制限酵素切断部位を設定した遺伝子を設計した。末端部が20から40base相補するように80merから99merのプラス鎖とマイナス鎖を設定し,各々をDNA合成機で合成して,電気泳動で精製した。これらを等モルずつ 図2 に示すような行程でSPRを繰り返し,人工遺伝子を作製した。pUC19にクローニングし,塩基配列を解析したところ,ウマインターフェロンα1及びγの完全な塩基配列を有する人工遺伝子が作製されていた。
  • 従来法では人工遺伝子の作製に数ヶ月から数年という長期間を要した上に,欠失変異が遺伝子中に入るなど問題が多かったが,SPR法では1週間以内で遺伝子が完成し,変異の挿入も少なかった( 表1 参照)。

成果の活用面・留意点

サイトカイン人工遺伝子を簡便・迅速に作製するための新しい手法としてSPR法が開発された。インターフェロンなどに限らず,様々な有用遺伝子の作製が可能,さらに本方法は遺伝子改変による蛋白質工学や人工蛋白質の設計にも応用可能である。また大きな遺伝子・ゲノムの人工的合成への応用も可能と考えられる。

具体的データ

図1-a SPRによる人工遺伝子の作製 図1-b 従来法による人工遺伝子の作製

図2 ウマインターフェロンα1の作製行程

表1 新法(SPR)と従来法における人工遺伝子の質の比較

その他

  • 研究課題名:酵母におけるサイトカイン分泌発現システムの開発
  • 予算区分:畜産対応研究(サイトカイン)
  • 研究期間:平成9年度~平成14年度
  • 発表論文等:
    1.CYTOKINE, 11 : p.927(1999)
    2.第126回日本獣医学会講演要旨集,p.152(1998)
    3.第94回日本畜産学会大会講演要旨集,p.192(1998)
    4.日本化学会第73秋季年会講演予稿集,p.335(1997)