脳手術台の作製と術後モニタリング法の開発による牛脳手術法の確立

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要約

牛に全身吸入麻酔下で長時間・安全に脳外科手術を実施するための牛脳手術台を開 発した。さらに,この手術台を用いた牛の脳外科手術手技を検討し手術後経過のモニタリング法を開発した。

  • 担当:家畜衛生試験場 病態研究部 病態生理研究室 (現 動物衛生研究所 生産病研究部 病態生理研究室)
  • 連絡先:0298(38)7810
  • 部会名:家畜衛生
  • 専門:診断予防
  • 対象:牛
  • 分類:普及

背景・ねらい

現在,動物の脳・神経機能の解析には,正確な脳地図が作製されている実験動物を用いた研究が行われ多くの成果が上がっている。家畜において食欲などの本能的行動や感覚機能を誘起させる脳神経機能を理解することは生産性向上を考えるうえからも重要である。しかしながら,牛の脳機能解析に関する研究はほとんど行われていない。家畜の脳機能の解析のためには脳地図の作製と,脳手術法の開発が必要不可欠である。そこで,本研究では牛の脳機能解析のための基礎技術と して安全かつ長時間利用可能な,牛の脳手術法を開発した。

成果の内容・特徴

  • 成牛(体重600kg前後)の脳外科手術を実施するために必要な牛脳手術台を開発した (図1)。 成牛の脳手術台への誘導,全身吸入麻酔の導入・維持,脳手術を行うための胸骨坐位保定・頭部固定,手術後の麻酔からの回復処置など一連の作業を安全に実施できることが確認された。
  • イソフルランによる成牛の全身吸入麻酔について,牛脳手術台を用いた方法による脳循環器系の変化を従来の横臥位保定法による変化と比較検討した。横臥位保定下では麻酔開始から3時間目で第一胃鼓脹に伴う大量の第一胃液の吐出が生じた。一方, 脳手術台を用いた麻酔下では第一胃鼓脹や第一胃液の吐出は起こらず,横臥位に比べ脳圧・血 圧の上昇を低く抑えることが出来た (図3, 図4)。 また,麻酔後の歩行障害なども認められず,成牛における脳外科手術のための全身吸入麻酔を長時間,安全に実施する方法をほぼ確立した。
  • この手術台を用いた脳外科手術後に硬膜外圧の持続的測定を実施したところ,重篤な合併症(感染,脳損傷など)は起こらず, 脳圧のモニターとして少なくとも数週間は使用に耐え得ることが確認された。硬膜外圧は,手術後徐々に低下し10日目には10mmHg前後で安定することが明らかになった。牛では硬膜外圧が 20mmHg以上で食欲不振,35mmHg以上では抑鬱状態が認められた (図2)。 また,脳圧の亢進は手術時における脳内出血の程度を反映していた。 以上のことから脳圧の観察は牛の脳外科手術後経過のモニタリング法として有用であることが判明した。

成果の活用面・留意点

本法により長時間にわたる成牛の全身吸入麻酔及び脳外科手術とモニタリングが可能となり ,脳機能解析への応用が期待できる。

具体的データ

図1 全身吸入麻酔を行うための牛脳手術台

 

図3 全身吸入麻酔での牛の平均脳圧

 

図4 全身吸入麻酔下での牛の平均動脈血圧の推移

 

図2 脳手術後の脳圧の推移

その他

  • 研究課題名:牛における脳定位手術法の開発
  • 予算区分:パイオニア特研(脳アトラス)
  • 研究期間:平成12年度(平成9~12年度)
  • 発表論文等:特許登録:大動物用手術台設備(特許第3016024号)(1999)